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戻れないように君を壊した.1 [ 77/145 ]

モア様、素敵リクありがとう御座います!鯉伴夢で鬼畜言葉攻めロリコン仕様…になっているのか怪しいですが、お納め下さいませ。


 私は、どうしても信じられないことがある。才色兼備の姉が、目の前にいる優男と付き合っているのかサッパリ理解できない。
 口は悪いし、意地悪だし、態度もデカイし。良いところなんて顔くらいだ。妖怪を惹きつけ易い私を案じた姉が、紹介してくれたのは妖怪の総大将だった。
 普通、陰陽師とかに頼るもんだろうと突っ込み入れない。私の為に一生懸命探してくれたのを知っているからだ。確かに、以前と比べて妖怪に襲われることは減ったけど……。
「いい加減にして下さい! 昼間っから人をストーカーしないで下さい。奴良鯉伴!!」
 私の後ろをピッタリ歩く鯉伴をギッと睨みつけるが、全く効果はない。
「どうせ名前で呼ぶなら、鯉伴にしろよ」
「五月蝿い。変態大将めっ、今度からストーカー大将に改めるわよ」
 プリーツスカートを靡かせて仁王立ちで宣言するが、相手は私よりもうんと年上で妖怪だ。勝てるはずが無かった。
「変態の次はストーカーねぇ。しまいにゃ犯すぞ」
 ニッコリと恐ろしい事を宣う鯉伴に、私はゾワッと悪寒が走り後ずさる。
「怯えんなよ。もっと弄りたくなるだろう」
 どんだけサディスティックなんだ、この男は。ブルブルと震える私の肩を抱きこみフニフニュと胸を遠慮なく揉む。
「フニャァアアッ!?」
「身体は、ちまいくせに胸だけはしっかり発育してるよな。E65か?」
「人の胸を揉みながら言うなぁあああ!」
 こういうところが変態なのだと思うのは、絶対私だけじゃないはず。
「良いじゃねぇか、減るもんじゃねーんだし。佐久穂が、素直になれば可愛がってやるよ」
「あんたが言うと、物凄く卑猥に聞こえる。つーか、私を構ってる暇があるなら美人なお姉ちゃん達のところに行きなよ」
 その方が、私の貞操は守られる。決して我が姉・若菜の名前は出さない。こんな奴に若菜をくれてやるのは、物凄く勿体無い!! 勿体無いお化けがでる。
「可愛くない口だな。塞ぐぞ」
「……」
 冗談に聞こえない奴の言葉に、私はピタリと暴言を吐くのを止めた。
 そしたら、チッと舌打ちが聞こえた後、私の顔を見て盛大な溜息を吐きやがった。
「……ガキ」
「あんたに言われたくないわ、奴良鯉伴! とっとと帰れ」
「……小学生」
「私は、2月14日に十六歳になるっつーの!」
 子供染みた嫌がらせに私は眉を顰めながら文句を返す。何を言ったところで、目の前の男が改心するはずがない。
 浅い付き合いで、その辺りはよーく身に滲みている。私は、無視を決め込み鯉伴の存在を頭の隅から追いやった。


 2月に入ると、コンビニやスーパーはバレンタイン一色に変わる。悲しいかな。私の誕生日が、バレンタインなもんだから皆にすっかり忘れされてしまうのだ。
 自室でゴロゴロしていると若菜が入ってきて、非常に迷惑極まりない提案をしてくれた。
「バレンタインデーの日なんだけど、奴良組の皆にチョコを上げようと思うの」
「良いんじゃない?」
 どうでもよさ気に返してると、若菜は頬を染めながら「それでねと」話を続ける。
「――個人でチョコを用意すると予算的にきついでしょう? 私がお金出すから、佐久穂ちゃんはクッキーを焼いて欲しいの」
「は? 何で私が」
「だって、私より上手じゃない」
 うるうると目を潤ませて上目遣いでお願いするなんてズルイ。そのポーズに私が弱いの知ってる癖に、本当にズルイ。
 若葉の壊滅的な料理の腕前を知ってるから、頼みたくなるのは分からなくもないけど。いずれ嫁ぐのだ。そろそろ、花嫁修業をした方が良いんじゃなかろうか。
 二十五歳でクッキーも作れないってヤバイだろう。色んな意味で。
「作り方教えてあげるから、お姉ちゃんも一緒に作ったら?」
「私、食べるの専門だから。それに佐久穂の作ったクッキーが食べたいんだもん」
 愛くるしい笑顔でそう言われたら頑張るしかないでしょう。
「……仕方ないなぁ」
 お姉ちゃん大好きな私は、あっさりと若葉のお願いに陥落したのだった。


 バレンタイン前日、私と若葉はスーパーの一角でクッキーの材料を買い漁っていた。
「佐久穂ちゃん、それ賞味期限目前のやつだよ。新しいの買った方が良くない?」
「良いのよ。どうせ、明日奴等の腹に消化されるんだから。あ、小麦粉も半額になってる奴がある」
 値引きシールが貼られた牛乳と小麦粉、バータを籠の中に放り込んでいく。
 賞味期限を気にする若葉には悪いが、妖怪共にはこれくらいが丁度良い。手を掛けてやる気も、腹の具合を心配してやる気もない。
 賞味期限前に私の手でクッキーに加工されるのだから、問題はないはず。
「鯉伴君にもあげるんでしょう?」
「……一応お世話になってるからね」
 本当は、あげるのも嫌だけど出資者は若葉だし、世話になっている手前で一人だけ貰えない状況を作ってやるほど根性は曲がってない。
「鯉伴君、喜ぶね」
 ニコニコと笑みを浮かべる若葉に、私は大きな溜息を一つ吐いた。普通、妹でも自分の彼氏にバレンタインのクッキーを用意したら嫌な気をするだろうに。
 目の前の彼女は、一体どうして普通の感覚が抜けているのか。頭の痛い状況に気が滅入りそうになる。
「クッキー楽しみにしてるね」
 私を上手く操縦する若葉に、勝てないと思った瞬間だった。

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