小説 | ナノ

針のむしろに涙した [ 29/34 ]


 乙女と一緒に登校したのが早計だったのか。周囲からの視線が物凄く痛い。
「清継君! 乙女さんと付き合ってるって本当なの?」
 挨拶もなしに、私の顔を見た瞬間開口一番に出た巻の言葉は、多分ここに居る誰もが聞きたかった内容に違いない。
「あ、ああ……そうだけど」
 引き気味に肯定する私を余所に、周囲からは割れるような悲鳴が上がった。
「絶対奴良とだと思ったのにぃぃい!」
「いくら乙女さんでも女に取られるのは嫌ぁぁ」
 鳥居の台詞は許容範囲内だが、巻の言葉は明らかにリクオとそういう関係を望んでいると匂わせる内容だ。
「お前なぁ、俺とあいつでリアルBLするなっつてんだろう」
 米神を揉み解しながら文句を言うと、ガシッと肩を掴まれ詰め寄られた。
「一体いつから付き合ってるの?」
「いつからって……」
 素直に先日からと言ったら、それこそ面倒臭いことになりかねない。
「佐久穂、ここは一時退散した方が良いのではないか?」
 如意輪観音の提案に、私は一も二もなく飛びついた。脱兎の如く教室を飛び出そうとしたら、人にぶつかってしまった。
「ゲッ、リクオ」
「自ら飛び込んでくるなんて、探す手間が省けたよ」
 フフフと黒い笑みを浮かべて人の制服をガッチリ掴むのは止めて欲しい。
「奴良、よくやった!! そのまま掴んでろよ。さあ、清継君吐いて貰うわよ」
 にじり寄る巻、目の前にはリクオ。前門の虎、後門の狼とは、正にこのことを言うのか。
「呆けておる場合ではいぞよ」
「クソッ」
 こうなったら、リクオを道ずれにして授業をサボってやる!どうせ逃げられないのだ。開き直るしかないだろう。
 リクオに体当たりし、出来た隙間から一目散に教室を飛び出した。
「テメェ、待ちやがれ!」
 夜リクオの意識が、表面化したのか人間の時には珍しい乱暴な言葉遣いに唖然としているものは多いだろう。
「待てっつって待つ馬鹿がどこに居るか」
 背後から追いかけてくる気配に冷や汗をかきながらも、どうやって彼を撒こうかと考えた。


 ――のだが、追いかけっこは私の惨敗で幕を下ろした。
「年貢の納め時だぜ。佐久穂」
 額に汗を浮かべながら、ゼイゼイと息を切らせるリクオ。私は、立てんとばかりにアスファルトの上に寝そべっている。
「納めたくねぇ……」
 悪あがきよろしく這って逃げようとする私の行く道を阻んだのは、これまた怒り心頭な様子のぬらりひょんだった。
「よぉ、佐久穂。ちょいと聞きたいことがあるんじゃが、これから付き合えや」
 貴様、どっから湧いたんだ。突っ込みたいのに、息切れしすぎて突っ込めない。
「僕が、先約だ」
「別に良いじゃろう。どうせ聞くことは同じなんじゃ。ここに居たら目立って仕方ない。場所を移すぞ」
 ぬらりひょんは、私の身体を担ぎ上げるとスタスタと歩き出した。その方角は、馴染みになりつつある化け猫横丁。これは、もしかしなくとも『身体で説教』コースですか?
 一人ならまだしも、隣にはリクオもいる。一気に血の気が引く私に対し、如意輪観音が慰めにもならない言葉を言った。
「骨は拾ってやるからガンバレ」
 面倒ごとに首を突っ込みたくないと言わんばかりに、彼女はさっさと異界へ戻ってしまったのだった。

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