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案の定と言うべきか [ 28/34 ]


 私の護衛を買って出た寿には、申し訳ないが辞退して貰った。と言うのも、彼女は小学校に通っている為、一緒に登下校するのは無理と判断してのことだ。
 勿論、散々駄々をこねられたが寄り道せず真っ直ぐ帰ることを約束し、何とか気を治めて貰った。
 幸子の感は鋭く、案の定『私が彼女』と言い出す輩が続出した。
 それだけならまだ良い。『俺が彼氏』と言い出す阿呆まで続出するって一体どういう了見だ。
「本当、何考えてんだ。男なんてマジありえねぇだろう」
「フフフ、これ幸いと既成事実を作りたいんですよ」
「全然嬉しくねぇ。つーか、悪いな。乙女にこんな役押付けちまって」
 彼女役に乙女は最適だった。如意輪観音だと、エロ臭くなる上に年上過ぎてアウトだ。
「わらわでも良かったじゃろうに。何が不満じゃ」
「流石に中学生が、それこそお色気ムンムンの年上の女と一緒に居たら有らぬ疑いを掛けられて職務質問のためにしょっ引かれますよ」
 如意輪観音が、とは賢明な私は口に出さなかった。ムスッと口をへの字にして膨れる姿は、何とも可愛らしい。
「年も近くて真実味がありそうな乙女さんの方が説得力あるんですよ」
「まあ、それもそうじゃな。しかし、ベタベタ引っ付く必要があるとは思えん。乙女、離れろ」
 そう言いながら、グイグイッと乙女のセーラー服を引っ張る如意輪観音を綺麗に無視して私の腕に手を絡めている。
「佐久穂、随分見せ付けてくれるじゃねーか」
 気配もなく背後からドスの聞いた声音に、私の身体はビクッと大きく揺れた。
「リクオか、驚かせるなよ」
「何でその女と朝っぱらからイチャついてるのか納得いく説明してくれる?」
 ニコニコと笑みを浮かべながら脅しを掛けてくるリクオに、乙女は畏れることなく呆気羅漢と交際宣言をした。
「私達お付き合いをし始めましたの」
「はぁああ!? ちょっと、どう言うことだよ!! ぼ……」
「そうですよ! 何であんたと清継君が付き合うんですか。私がいるのに、こんな年増に唆されるなんてぇぇええ」
 リクオを押し退け食って掛かる氷麗の形相は、ぶっちゃけ怖かった。目が血走ってます、氷麗さん。
 胸倉を掴まれガクガクと揺さぶられる。折角入れた朝食が、早くもリバースしそうだ。
「唆されたわけでもねーっつの!」
 だから放せと言ったら、氷麗の動きが止まり訝しんだ私は、彼女の顔を覗き込んだ。
 絶句とはこの事を言うのか。滝のように流れる涙は、コロコロと氷の結晶になっている。
「お、おい泣くなって」
「清継君のために今まで尽くしてきたのに……捨てるなんて酷いですぅぅぅう」
 氷麗は、誤解を招くようなこと吐き捨て逃げ去った。周囲から白い視線が突き刺さり居たたまれない。
「頼むから誤解を招くようなことは言わないでくれ」
 ハァと肩を落とす私に、不幸はそれだけに留まらなかった。
「ふぅん、僕だけじゃなく氷麗とも関係があったんだ? 二股どころの話じゃないよねぇ」
 説明しやがれとにじり寄るリクオを突き飛ばし、乙女の手を掴み逃亡した。
「佐久穂! 待ちやがれっ」
 ギャオウッと怒声を上げて名前を呼ぶリクオを華麗にスルーし、私は一目散に学校へと駆け込んだ。
 まさか、彼と同じクラスになっているとは思わずに。

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