小説 | ナノ

act176.5 その1 [ 18/34 ]


 化け猫屋に来るのは、何回目になるだろうか。馴染み客になりつつあることに、誰も突っ込みを入れないというのは変な話である。
 通されたのは、奥座敷―椿の間―だ。通常の座敷と違い人の気配が全くと言っていいほどない。この部屋が、所謂ラブホ的な要因を兼ねていることを知ったのは随分と前のことである。
「往来で喧嘩おっぱじめやがって、俺暫くの間あそこに行けないじゃねーか」
 恨みがましくぬらりひょんとリクオを睨みつけると、彼らは堪えた様子もなく未だ私の所有権について言い争っていた。
「だぁあっ! もう、お前らうるせーよっ。人を物扱いするな。俺は、誰のものにもなった覚えはないし、これからもなるつもりはねぇ!」
 ベシバシッと二人の頭を叩き宣言すると、
「佐久穂は、俺の女だ。未来永劫それは変わらねぇ」
「何を云うか!! 佐久穂は、ワシの女じゃ。四百年前の約束を反語にするとは言わせんぞ」
 息がピッタリ合った猛抗議をされてしまった。しかも、ぬらりひょんは良い様に四百年前の約束を歪曲しているから手に終えない。
「俺は、男だっつーの! 四百年前にキッチリ約束守ってやっただろうが。白無垢と紋付袴を用意してやったのに忘れたと言うのか?」
「着る女がいなけりゃ意味がないじゃろう」
「珱姫と祝言挙げたくせに何を云う。俺は、今生では可愛い伴侶を貰って極々平々凡々に余生を送るんだ。お前らのお家騒動に巻き込まれて堪るか!」
 ゼイゼイッと肩で息をしながら溜まりに溜まった鬱憤を吐き出した。
「……ジジイも俺も選ぶ気はないってことかい?」
「そう言ってんだろうが!」
 言ってから、しまったと後悔しても遅かった。くつくつと似つかわしくない笑みを鬱葱と浮かべるリクオに私は慄いた。視線を動かし隣に居たぬらりひょんは、無表情になっていて怖い。
「ほぅ、佐久穂が出した条件とやらを達成したら嫁になると言ったのは嘘か。最初からワシらを謀っていたと」
 うわーん、私の馬鹿!! 余計なことまで洩らしてしまった。ダラダラと冷や汗が流れ落ちる。
「なあ、ジジイ」
「何じゃリクオ」
「佐久穂は、どうあっても俺らの物にならねぇらしい。言い争って逃げられるより、手組まねぇか?」
「……あまり気乗りはせんが、誰かに取られるくらいなら致し方がない。どっちの子を孕んでも文句なしじゃぞ」
「分かってる。というわけで――佐久穂、おめぇに逃げ場はねぇぞ。逃がす気もないがな」
 極悪な笑みを浮かべて非常識且つ非道なことを平気で宣うリクオに、私は盛大に顔を引きつらせた。

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