小説 | ナノ

賭博好きのお姫さま [ 17/34 ]


「二十四日暇?」
「忙しい」
 リクオの問い掛けを一刀両断するのは、清十字怪奇探偵団の発起人こと佐久穂だ。
 文化祭の報告と帳簿を睨めっこしながらガリガリとペンを動かし、その間一切顔を上げていない。
「冬休み入ってるでしょう」
「それがどうした。Xmasは、家族で過ごすって決めてんだ。それに二十五日から遠野に行く予定だ。羽衣狐戦で随分と幸子が世話になったしな。奴良に付き合ってる暇は無い」
「何それ!! 聞いてないよっ!」
 バンッと机を叩き怒り出すリクオに、私は顔を上げ嫌みったらしく盛大に溜息を吐いた。
「何でテメェに言う必要があるんだ。お前だって、家でXmasするんだろう? つか、三代目就任したばっかなんだし羽目外すなよ」
 ヒラヒラと手を振り話は終わったとばかりに打ち切ろうとしたら、何時習得したんだと思ったくらいドスの利いた声音で私を脅してきた。
「……遠野から戻ってきたら、足腰立たないくらいに犯してやる。暫く、腰痛で動けないのを覚悟しておけよ」
 リクオは、二人きりなのを良いことに物騒なことを宣った。私は、ゾワッと悪寒が走り全身鳥肌になっている。
 これは、本気でやりかねない。私は、貞操と家族を天秤に掛け瞬時に答えを弾き出す。
「二十三日なら都合がつく。それで我慢しろ」
「二十四日!」
「チッ、二十四日なら昼までしか都合はつかん。二十三日なら夕方からフリーだ。翌朝帰れるなら泊まりも可能だぜ」
 二十四日に固執するリクオに交渉材料をくれてやれば、彼は渋々と云った感じで二十三日で承諾した。
 二十四日は、幸子達とXmasパーティをするため外せない。彼らを優先したとリクオが知ったら、それはそれで鬱陶しいことになりそうだが様は言わなければ良いのだ。
「じゃあ、二十三日の夕方迎えに行くから」
「分かった。んじゃ、この書類目を通したらそこのパソコンで清書してくれ」
 卒業式の進行の詳細が書かれた書類をリクオに押し付け、私は再び机に向かい別の書類に目を通しながら生徒会長業務を全うしていた。
 これが、クリスマスイブ一週間前の会話だったりする。


 十二月二十三日の夕方。奴は、音もなく私の部屋に現れた。花開院当主直筆の札も、リクオに掛かれば無意味と言える。
「よお」
 銀と黒の髪をなびかせ立つ姿に、以前よりも様になり威厳が出てきたように見える。
「相変わらずこの部屋にゃ結界が張ってあんだな」
「流石に寝室にスポスポ妖怪が入られたら困るんだよ。幾ら幸子や女郎蜘蛛が有能だからと言ってもな」
「ふぅん、如意輪観音も別の部屋にいるのかい?」
「嗚呼。じいさんの使っていない書庫を改造して部屋を作った。幸子達もそこにいるぜ」
 なんなら会うか? と暗に言えば、彼は首を横に振り私の腕を掴み引き寄せた。
「あいつらと会ったら邪魔される。さあ、時間は短いんだ。行こうぜ」
「ちょっ……なんで横抱きなんだ!」
 ジタバタと暴れてみせるが、リクオは私の反応が楽しいのかクツクツと笑うばかり。
 窓に足を掛けたかと思うと、軽快な足取りで電柱を足場にヒョイヒョイと移動していく。
「どこ行くんだよ?」
「化け猫屋さ。Xmas限定のメニューがあるんだとよ」
 空中散歩を強要しつつ、ものの十分で一番街の化け猫横丁までやってきた。
 私を抱きかかえながら堂々と連れ込むリクオに、蛇骨婆が声を掛けてくる。
「おりょ、珍しく一人かい? イブイブだってのに、女の一人もコマセないとは情け無いねぇ」
「うっせーよ。本命がいりゃそれで十分だ」
「ホホホッ、そんなところはあのジジイに似たのかい。ま、ゆっくりしていきな」
 蛇骨婆の言葉に、リクオは片手をヒラヒラさせそれに答えている。
 相変わらずリクオの畏れは使い勝手が良い。以前に一度来た時に比べ、上手く私を隠している。
 難なく番人を交わしたリクオは、私を連れ化け猫屋へと訪れたのだった。
 暖簾を潜れば、そこは活気に満ち溢れる化け猫屋。何故かクリスマス仕様になっている。
「よお、邪魔するぜ」
「いらっしゃいませ! 化け猫屋へようこそ!!」
 威勢の良い声があっちこっちから聞こえてくる。クリスマスカラーの衣裳なのに、でも着物。滅茶苦茶アンマッチ過ぎる。
「佐久穂様もいらっしゃい! ささ、料理は出来てますよ〜」
 ピコピコと猫耳を忙しなく動かしながら、私の背中を押し二階の座敷へと案内してくれる。
 十畳ほどの座敷に円卓が置かれ料理がところ狭しと並べられている。
「うわぁ! すげぇ美味そう」
 和風隠食事処と言うだけあって和食が並んでいるのだが、洋風っぽくアレンジされているところがまた良い。
「ささ、座ってくだせぇ」
 上座に並ぶように座らされ、それぞれ女妖怪が酌をしにしな垂れ掛かって来る。
「さあ、さあ宴の始まりでさぁ」
 誰が言い出したのか乾杯の音頭で、飲めや歌えやの乱痴騒ぎが始まった。


 飲み出して既に二時間が経過すると、弱いものから順に出来上がってくる。
 モリモリと料理を片っ端から食べる私に対し、リクオがジーッとこちらを見ている。
「おい、食べてばかりいないでちったぁ飲めよ」
「飲んでんだろう。マタタビジュース」
 グラスを揺するよに見せると、リクオはムッとした顔で私を見ている。
「大体、俺は人間だ。飲酒は二十歳からって法律で決まってんだよ」
「妖怪の世界じゃ十三歳が成人だ」
「塀理屈云うな」
 飲む気のない私に対し、リクオは尚も食い下がる。どうも私に酒を飲ませたいと見える。
 絶対何か裏がありそうだ。どうしてくれようかと考えていたら、良太猫が座敷に顔を出した。
「三代目、佐久穂様いらっしゃいませ! 今日こそは、お手合わせ願いますよ」
 花札を見せながら勝負を挑んでくる良太猫に、私はふと思いついた。
「花札か良いじゃねーか。よし、奴良俺と勝負しろ」
「は? お前、花札知ってんのかよ」
 突拍子も無いことを言い出したと云わんばかりのリクオの顔に、私は畳み掛けるように言った。
「ルールなら知ってるぜ。お前が勝ったら何でも一つだけ聞くってのはどうだ? 俺が勝ったらお前に女装させてやる」
「ほぉ……言ったな。是非とも、いう事を聞いてもらおうじゃねーか」
 リクオは、良太猫から花札を引っ手繰ると開けた場所にドカリと腰を下ろした。
 私もそれにならい彼の前に座る。私達の勝負に周りも賭けをし始めた。
 ギャラリーを背負いながら、私は札を手に取りリクオに勝負を挑んだ。


「猪鹿蝶。こいこいだ」
「こっちは赤短だ。こいこい」
 こいこい合戦になりつつあるが、そろそろ決めたいところ。後一枚で五光が完成する。
 鳳凰の札が出た瞬間、私はその札を取り上がりを告げる。
「俺の勝ちだ! ハハハッ、ざまーみろ」
「ま、負けた。屈辱だ。佐久穂に負けるなんて……」
 ガクッと両手を床につき肩を落とすリクオに、私はペカーッと良い笑顔を浮かべて言った。
「約束通り女装な。良太猫、こいつに見合う女物の着物持って来てくんねーか。後、化粧道具もよろしく」
「え? 正気…です、か?」
 冷や汗をダラダラ流す良太猫に、私は鷹揚に頷いた。
「本気も本気。大体、今ここで着替えさせなきゃのらりくらりと逃げるだろう」
「……」
 リクオから無言の圧力がかかるが、ガスッと奴の脳天に一発拳骨を落とし、有無を言わさず着物を用意させた。
 流石に女子の前で着流しをひん剥くわけにはいかず、一時退席して貰い借りた着物を手際よく着せていく。
 少々腹いせとばかりに、帯を思いっきり締上げたのご愛嬌。
「さてと、後は顔を作るか」
 ジャキッと指の間にマスカラや筆を挟みニマァと笑う姿にリクオが慄き悲鳴を上げたのは言うまでもない。
 十五分後、綺麗に化粧をし髪型を弄られた美女が出来上がった。
「……なんかムカつく」
 予想以上に良い出来に仕上がったのはまあ良い。しかし、元来女であった私より化粧が似合うのに負けた気がする。
「もう良いだろう」
「ちょい待ち」
 携帯を取り出し、パシャりと写メを撮る。
「嗚呼っ!! 何とってやがんだ!」
 携帯を取上げようとするリクオから離れ、私物のPCへ画像を送信しておく。これで弱みは握った。
「油断も好きもありゃしねぇ!」
 携帯を取上げデータを削除しているリクオに、私はケチと文句を言った。
「つーかさ、お前が女なら物凄い美人だったんだろうな。嗚呼、勿体無い」
「なんでぇ、女だったら嫁に貰ってくれたのかい?」
「女だったらな考えた。なーんてな、嘘に決まってんだろう。お前と結婚したら、それこそ気苦労と危険が耐えない生活になるっつーの」
 冗談だと笑い飛ばすが、肝心の奴は何やら思案顔。調子が狂う。
「奴良?」
「嗚呼、悪い。ちょいと用事が出来た。送っていく」
 心あらずと言うか、リクオの態度に顔を顰めるも襲われなくて済んだことに結果オーライと安易に考えていた。
 後日、彼が鴆に女体化なる薬を作れと無理難題を頼んでおり、その原因が私だと知り鴆が泣きついてくるのはまた別の話。

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