小説 | ナノ

act95 [ 96/199 ]


「清継、花開院と一緒に後ろに下がれ」
「おう」
 この状況下で真名を呼ばなかったリクオに驚いたものの、彼もまた相手に私の真名が知られてはいけないことを無意識で察知したようだ。
 祢々切丸を構え相手を見据えるリクオに、私は固唾を飲んでその様子を見守った。
「待て魔魅流。そいつらは俺がやる」
 竜二は、余裕の表情で竹筒を二つ取り出したかと思うと攻撃を仕掛けてきた。
「式神融合“仰言”」
 清浄過ぎる水気に、私は眉を潜める。私にとっては心地よく感じても、妖怪は猛毒だ。
「ただの水ではないぞ。地に根をはり花を咲かせて魅せよ……」
 宙を漂う蓮の花に呆気に取られているリクオに、私は声を上げる。
「それに触れるな! あれはヤバイ」
 蓮の花弁から落ちた水滴が、地面を抉るように溶かした。嫌な予感的中。
 目を大きく見開きその様を凝視しているリクオと、危険な技を放った竜二に対し激怒するゆら。
「式神仰言は、金生水の花。金生水とは、金の表面の凝結により生じた水滴を集めた物。純度は99.9999%……。最も澄んでいて最も柔らかい水。この世で最も腐食を促す液体は酸でも王水でもない。純粋な水そのものだ。式を交えたこの花に触れれば、どんなものでも忽ち溶ける。例え妖怪であってもな。仰言に今まで三分持ったものはいない。この式神は、それほど強力なものだ」
「……三分」
 浪々と解かれる言葉に、リクオは眉を潜める。講釈を垂れながら3分時間が経過するのを待っているかのような竜二の行動に不審を覚えた。
「……奴良」
「分かってる」
 私の言いたい事が分かったのか、彼は前を見据えながら小さく頷いた。
「そう三分がお互いにとって限界だ。生憎、俺はゆらや魔魅流のような才能がないんでね。俺ごときでは、強力な式神を出し続けるのが三分が限界なんだよ。三分耐え抜けばお前の勝ち、耐えられなければ俺の勝ちだ。やるかやられるかの大勝負だ」
 竜二の言葉を戦闘の合図と捉え、彼はリクオに向かって狂言を放った。
「グッ…」
 襲い掛かる蓮を祢々切丸で切り捨てるも元は水、避けることも塞ぎきることも出来ない。
「しぶとい野郎だ。そいつは妖刀か? それが無きゃとっくのとうに葬ってるはずだがな」
 嘘吐けと心の中で突っ込みを入れるが、竜二に嘘が見破られているなど悟られたくないので無言を貫く。
 時間が経過する度に減りつつある金生水の花。完全になくなったそれを見て、竜二は極悪人を思わせる笑みを浮かべて言った。
「三分間ごくろうさん。異形のものよ、闇に散れ。これが最後だ。仰言―金生水の陣―」
 リクオを取り囲むように陣が張られている。抜け目がない。花開院きっての原黒策士である。
「方陣!? いつの間に」
 吃驚しているゆらは、本当に騙されやすい性格をしている。これで大丈夫なのか、次期当主よ。
「俺は、才能が無いんでね。こいつを作るのに時間が掛かるんだよ。三分ほどな。ゆら、学べよ。力技だけではいかん。妖怪のような悪に対しては、二重、三重の罠を張ってのぞめ」
 術が成功したことで気を抜いた竜二をリクオは見逃さなかった。
「あいつは、あんたが思っているほど素直で良い子じゃないぜ」
 祢々切丸が竜二の身体を切り裂く、と言っても人は切れないので精々峯撃ち程度なんだろうが、それでも痛いものは痛いだろう。
「お兄ちゃん!!」
 ゆらの悲鳴が上がる。駆け寄ろうとする彼女を制止、指を刺して言った。
「あの刀は、人は切れない。竜二も死んじゃいねーよ」
「…いってぇ…」
 ムクリと起き上がった竜二にゆらは、腰を抜かしたのかヘロヘロとしゃがみ込んだ。
 一見落着かと思いきや、魔魅流がリクオの直ぐ傍まで迫っていてお得意の電撃札を繰り出そうとしていた。
「危ない!」
 ゆらを支えていた身体から手を離し、リクオのところまで駆け寄る。
 身を滑り込ませるには距離が足りず、勢いのまま彼の身体を突き飛ばした。
「アアアアアァァァァァァァッァアアーッ!」
 脳天を突き刺すかのような鋭い痛みに悲鳴を上げ、私はその場に倒れこんだ。

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