小説 | ナノ

act94 [ 95/199 ]


 リクオの感は、冴えていた。ゆらが、目隠しをしながら的に向かって廉貞を纏わせ黄泉送葬水包銃をぶっ放していた。
「精が出るな」
「へ? その声、清継君か!?」
 目隠しを外して驚いた顔で私をマジマジと見るゆらに、サンドイッチとお茶が入った袋を手渡した。
「僕も居るよ。あ、皆に知らせるけど良いよね?」
「ああ、頼む」
 隣に居たリクオがゆらに向かって手を振った後、無線機を通じて他のメンバーにゆらを見つけたことを報告している。
「えっと、何でここにおんの?」
「そりゃあ、お前がここ数日学校サボりまくって人に心配掛けさせたからじゃねーか」
「うっ……ゴメン」
「身体動かして腹減ってんだろう。それ食えよ」
「……おおきに」
 ゆらは、瓦礫に腰を下ろしサンドイッチを頬張りだした。モグモグと食べる姿は、リスのように見える。
「しかし、何で急に修行しようと思ったんだ?」
「妖怪の主に助けられるし、守りたい人も力不足で守られへん。弱い自分が嫌やねん」
「それで修行してたんだ。凄いね! なかなか、自分を律して高みを目指そうとする人は居ないよ。尊敬するな」
 連絡をし終えたリクオがタイミングよく戻ってきてゆらを褒めちぎった。
 彼の言葉に、ゆらはと言うと顔を赤くしている。その光景が、何だか面白くない。
「何はともあれ見つかって良かった。ゆらに言わなきゃならんことが……」
「こんなところに居たのか、ゆら。清継も居るとは都合が良い」
 ザッと砂を踏む音が聞こえたかと思うと、極悪非道な顔をした花開院竜二と生気の抜けた魔魅流の姿があった。
「妖怪が傍に居るってのに、何してんだ」
 剣呑な目でリクオを睨む竜二に、私は頭を抑える。流石、花開院随一の探索能力が優れているだけあり誤魔化しがきかない。
「な、に、言ってるん」
「清継の隣にいるガキは、妖怪だって言ってんだよ」
 竜二は、問答無用でリクオに対し攻撃を仕掛けてきた。間一髪ゆらの護符で直撃は免れたが、その行動が竜二の逆鱗に触れた。
「おいおい、何のつもりだ」
 竜二の問い掛けに答えず、ゆらは庇ったリクオに問い掛ける。
「奴良君は、人間やんな?」
 疑惑を色濃く宿した瞳は、人だと肯定して欲しいと強く願っているようにも見て取れた。
「僕は、人だよ」
 彼の言葉に、ゆらがホッと安堵の息を吐く。
「聞いたやろ! 奴良君は、敵とちゃう!! 人間や」
「愚かな。妖怪を庇うことは、花開院の掟に背くこと。ゆら、俺の言葉が信じられんのか」
「奴良君は、うちのクラスメートや。敵やない! どうしても倒す言うんなら、うちが兄ちゃんを倒す!」
 眉間に皺を深く刻み、ゆらを睨みつける竜二に私はヤバイなと冷や汗を流す。
「ゆら、自分の言葉に責任を持てよ。――食らえ我狼――」
「廉貞!式神改造・人式一体―黄泉送葬水包銃―」
 ゆらの廉貞が、我狼を目掛けて発射される。強烈な気が、我狼の身体に直撃する。
 呆気なく消えた我狼に、違和感を覚え眉を寄せる。
「爆」
 防御をしていなかったゆらは、まともに竜二の攻撃を食らってしまい吹っ飛んでしまった。
「ゆら! おい、大丈夫か?」
 私は、慌てて地面に叩きつけられたゆらを抱き起こす。
「花開院!! 何もそこまでしなくても良いじゃないか! あんた、兄さんじゃないのか?」
「妖怪如きが口を挟むな」
 竜二の言葉にリクオは息を呑む。
「竜二、いい加減にしろよ。それ以上、こいつやゆらの悪口言ってみろ。絶対許さん」
「許さん、か。一人じゃ何の力もないお前に何が出来る」
 蔑むような言葉に、私は瞠目する。こいつのこう言うところが嫌いなんだ。
「うちは、大丈夫やから。絶対に、あんたらを我狼に食わせん」
 ゆらは、痛むだろう身体を起こし真っ直ぐ竜二を見つめる。
「そんな芸当我狼に出来るわけがないだろう」
「え?」
 呆れた口調でゆらを見ていた竜二が、ニヤッとあくどい笑みを浮かべて言った。
「そいつの名前は、我狼じゃねぇ。暴れろ言々。頭の悪いゆらにお仕置きだ」
「やっ、何これ!! 口が…っ、がはっ…」
 ゆらの身体から体液が生き物のように出て行く。急激に無くした水分で、彼女は脱水症状を起こしていた。
「式神を操ることが陰陽師ではない。学べよ、ゆら。言葉を操り敵を欺くこともまた陰陽師なのだ。これも愛だ。今なら許してやる。死にたくなければ戻って来い」
「そんな愛があってたまるか! 陰陽師だか何だか知らねぇが……仲間に手ぇ出す奴は許しちゃおけねぇ!」
 感情の高ぶりと逢魔が時が重なり合い、大量の妖気がリクオの身体を包み一瞬にして闇の主へと姿を変えた。

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