小説 | ナノ

act88 [ 89/199 ]


 炎上する境内から離れた私達は、菅沼邸へと戻ってきていた。
「邪魅……どうして私を助けたの? 私達一族を恨んでいたんじゃないの?」
 助けられたことが不思議でならならないのか、品子は無言で佇む邪魅に問い掛けた。
「……お前は、殺した妻の子孫でもあるが主君の子孫でもある。こいつは、主君にただ尽くしていただけだ。ずっとあんた達一族を守ってたんだ」
 諭すようなリクオの言葉に、品子は瞠目したあと深々と頭を下げた。
「誤解しててごめんなさい。私を……私の一族を守ってくれてありがとう」
 品子は、穏やかな笑みを浮かべて礼を言う。礼を受けた邪魅の表情は札で見えないが、酷く喜んでいるようにも見えた。
「ずっと、主君の子孫を見守り続けた。その一言が欲しくて、私はあの方を守り続けた」
「念願かなって良かったじゃねーか。これで一件落着だな」
 昨日に続き夜更かしが続いて眠いったらありゃしない。
 ファーッと大きな欠伸を一つ漏らし、さて寝るかと思っていたら、
「見上げた忠誠心だな」
 リクオは邪魅に声を掛けていた。その目は、獲物を狙うそれと同じで嫌な予感に駆られる。
「何処の者かは知らぬが、このご恩は……」
「奴良組若頭、奴良リクオだ」
「は……」
「俺は、いずれ魑魅魍魎の主となる。そのために、自分の百鬼夜行を集めている。俺は、あんたみたいな妖怪が欲しい」
 バンッと効果音が付きそうな勢いで巨大な盃を差し出している。私は、リクオのナンパ癖を垣間見た気がした。
「魑魅魍魎の主……」
「邪魅、俺と盃を交わさねぇか?」
 スッカリ二人の世界になったのを目の当たりにした私は、無言で品子の手を引きその場を離れた。
「ね、ねぇ……奴良リクオって言ってたけど。あのリクオ君なの?」
 半信半疑で問い掛けてくる品子に、私はどう誤魔化すかと頭をフル回転させた。
「奴良=奴だとしたら、姿形が全然似通ってないぜ。同姓同名なんじゃねぇの?」
「で、でも……そうそう同姓同名っているのかな?」
「妖怪の世界は分からんが、奴良が妖怪と同じ名前だったなんて知ったらショックを受けて改名しようとするだろうな。このことは、俺と品子の二人だけの秘密な」
「……分かったわ」
 完全に納得したわけではなかったが、品子はそれ以上追及することはしなかった。
「さ、部屋まで送ってやるよ」
「ありがとう」
 私は品子を部屋まで送り届けた後、私は欠伸を噛み締めながら遅い就寝にありつくことが出来たのだった。

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