小説 | ナノ

act81 [ 82/199 ]


「しかし、邪魅には本当に手を焼かされる」
「神主さんは、邪魅をよく知ってるんですか?」
 やれやれと言いたげな神主の言葉に、鳥居が質問している。
「そりゃ知ってるだろう。邪魅祓いの看板出してるくらいなんだから」
 知ってなければ、邪魅の名を騙り悪事を働こうとは考えないだろう。
「昔から、この界隈じゃあ邪魅騒動の話は後が絶たないんだ」
「え? じゃあ、昨日のお化けにも何かお話があるんですか」
 目を丸し興味津々のカナに、私はガクッと肩を落とす。
「少なからず大なり小なり妖怪が誕生する裏には、何かしらの因果があるもんだ。邪魅だって、地ならしから生まれたようなもんなんだからな」
「へぇ、よく知っているね」
 眉がピクリと動き感心しているというよりは、観察しているように見える。
「依頼の内容くらい下調べするのが普通ですから」
 シレッと返せば、彼はそれ以上聞いてくることはなかった。
「この地が、秀島藩と呼ばれていた頃のことだ。名前は定かではないが、非常に君主に忠実な若い侍がいた。勤勉でよく働き、何より君主定盛を心から尊敬していた彼は、やがて定盛の目に止まる。定盛も大層彼を可愛がったという。侍は、瞬く間に出世しいつしか定盛の片腕とも呼ばれるようになった。しかし、それを良しと思わない者がいた。定盛の妻である。彼女は何をするにも一緒な二人が気に食わなかった」
 最後の言葉に、理解しているのは約一名。後は、皆ポカンと疑問符を浮かべている。
 いや、分かっちゃいたが自分が巻と同じ穴の狢だとは思いたくない。
「妻が、部下(男)に何で嫉妬するんですか?」
「封建社会では、そいうことが日常茶飯事であったんだよ」
 益々分からないと首を傾げる一向に、巻が挙手してズバッと言いにくいことを言った。
「モーホーすかぁ?」
「モーホー? 何だねそれは」
 今度は、神主が疑問符を浮かべている。モーホーと言っても分かる奴は限られている。
「巻、ホモかBLにしとけ。おっさんには分からん単語だ」
「あ、そっか。ごめんねー」
 ケラケラと笑う巻に、私は眉間の皺が一本増えグリグリと解す。
「BLってそんな昔にもあったんだ……」
「昔は、オープンホモの時代だったからなー。キリスト教が入ってくるまで普通にあったらしいぜ。嫌な時代だな」
 現在進行形で野郎に迫られる今日この頃を思い浮かべて溜息が出る。
「清継君、脱線しまくってますよ」
 チョイチョイと服を引っ張り軌道修正を促す氷麗に、私は思考が一瞬トリップしていたことに気付いた。
「ああ、悪い。定盛の妻は、侍に対しいわれのない罪を着せ屋敷の地下牢に閉じ込めたんだ。丁度その時だった。運悪く大津波が町を襲った。多くの民は、高台に非難したが閉じ込められた侍はそこで命を散らした。後に町を徘徊する邪魅なんだと」
 神主の言葉を引き継ぎ、邪魅になった侍の話を完結させる。
「でも、何で品子ちゃんに憑くんだろう」
 尤もな疑問を出したリクオに、神主が神妙な面持ちで言った。
「彼女が、定盛の直系子孫だからだよ」
 その言葉と同時に私の携帯がけたたましい音を立てて鳴り響いた。

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