小説 | ナノ
act76 [ 77/199 ]
明らかに怪しい神主の行動に、私は念のため彼から貰ったという札を写メに撮り送信した。
ただの札ならそれでよし。違うなら、対策を講じなければならない。
「品子、神主さんから貰った札以外全部剥がして貰って良いか」
「ダメよ! そんな事したら、あいつが襲ってくるじゃない」
効果なんて信じちゃ居ないくせに、無いと無いで不安で仕方がないようだ。
「襲えないように対策はちゃんと講じるから安心しろ」
「でも……」
半信半疑の品子に、巻が珍しく私の味方についた。
「品子さん、清継君は肝心なところで嘘つかない人だから彼が大丈夫って言うなら大丈夫だと思う」
「そうだよ。結構頻繁に危ない目に遭ってきたけど、何のかんの言いながらも無事だったし」
鳥居が、うんうんと巻こ言葉に頷きながら品子を宥めている。
「具体的にどうするですか?」
氷麗の質問に、視線が私へ一気に集中する。私は、秋房に書いて貰った札を差し出した。
「これを使う」
「これって、清継君専用の札だよね」
神主の言葉を鵜呑みにしているカナに、私は苦笑いを浮かべる。確かに私専用に作って貰った特注の札だが、別に私だけを守る札ではない。
「この札は、ずぶの素人である俺でも使える札だ。基本的に守る・凌ぐに特化した札だから、これで妖怪を封じたり退治したり出来ないけどな。身を守る分でなら、十分だろう」
「花開院さんが、居ない今どうやって退治するんですか?」
島の疑問は尤もで、彼らも同じようなことを考えていたようだ。
「あの、花開院さんって?」
「フルネームは、花開院ゆら。清十字怪奇探偵団の特別軍事顧問。妖怪退治のエキスパートなんだが、連絡が取れないんで来てない」
「じゃあ、どうやって退治するのよ!」
「退治はしない。相手を知らなきゃ話になんねぇ。話で解決するなら、それで良し。力ずくってんなら、封じるしかねぇだろうな。ちゃんと道具も用意してある」
正直話し合いで解決出来れば一番なのだが、妖怪が人の言葉に耳を貸すかと言えば限りなくノーに近いだろう。
そこは、リクオに頼むとしてまずは邪魅の正体を見極めなければならない。
「……本当に信じて良いのね?」
「おう、身の保証はする」
「分かった。任せるわ」
品子からの承諾を得た私は、手分けして札を剥がしていく。集まった札の数は、ざっと百は超えているだろう。
「よくここまで集めたよな……」
札一枚一体幾ら掛けたんだろう。そう思わずには居られない。神主から貰った札をチェックしていくと、やっぱり品子の部屋にたどり着く。これは、わざとなのだろうか。
秋房に確認して貰っている今、確証がない以上は下手なことは言えない。
「この部屋に貼ってある札は、全部剥がしてくれ。くれぐれも剥がす時に絶対破るなよ。新しい札を貼る」
品子の部屋に御札が全て剥がされたのを確認した私は、新しい札を四方に貼る。
今までどんよりと淀んでいた空気が、一瞬にして晴れる。流石、秋房の作った札だけある。
「これで害のある妖怪は入れなくなった」
「ほ、本当に?」
半信半疑の品子に、私は応と答える。後は、神主から貰った札をどうするかだ。
「品子、空き部屋ってあるか?」
「ええ、あるけど……。どうするの?」
「ちょっと、な」
空き部屋を一室用意させると、神主から貰った札を今度は四方に貼りなおす。
「ここに名前と生年月日を書いてくれ」
人型をした紙とボールペンを渡すと、彼女は少々戸惑い気味に私を見る。
小さく頷くと品子は、何も言わずに名前と生年月日を書き入れた。
「清継君、あれ何してるの?」
「ん? 嗚呼、ありゃ品子の身代わりを作ってんだ」
きちんとした手順や方法を踏んだわけではない即席人型なので目くらまし程度にしかならないが効果は十分だろう。
「下準備は、これくらいかな」
品子が使っている布団の上に置けば完成だ。後は、夜を待つしかない。
「ふはーっ、お腹空いたよ」
「お前は、遠慮ってもんを学べ」
気の抜けた巻の腹減った発言に、私はガクッと肩を落としたのだった。
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