小説 | ナノ

act75 [ 76/199 ]


 氷麗が、『いざとなれば、清継君を除いて全員氷付けにすれば良いんですよ』なんて恐ろしいことをリクオに言っていたなんて知らず依頼者の屋敷へと来ていた。
 タッタッと走り寄るおさげの眼鏡少女が、わき目も振らず一目散にリクオに駆け寄る。
 一体なんだろうと思っていたら、
「貴方が、清継君ね!! 大丈夫かしら……メガネはメガネでも、何だか頼りなさそうな草食系メガネ男子って感じね」
と思いっきり誤解されている。しかも、頼りないの烙印つきだ。目を白黒させるリクオに、笑っちゃいけないと思うのだが、思わず噴出してしまう。
「……人違いです。清継君は、こっち」
 リクオはギッと私を睨み付けた後、眼鏡少女に訂正を入れている。
「え? この子が? 女の子……よね?」
「男です」
「嘘! 見えないわ……」
 彼女の言葉に、私の顔がヒクリと引きつる。流石に女の子を殴るわけにはいかないので、我慢だと言い聞かせる。
 隣でリクオが肩を震わせているのが見えて、後で殴ってやると心に決めた。
「依頼者の菅沼品子です。来てくれてありがとう。でも大丈夫かしら?」
 どこまでも正直且つ失礼な彼女の態度に、一同唖然としている。私は、慣れているので気にはしない。
「どうぞ。中を案内するわ」
 品子が屋敷の中へ招きいれようとした時、ザワリと妖の気配を感じた。


―――その娘に近づくな―――


 低い男の声に、私の足が止まる。辺りを見渡すが誰も居ない。しかし、妖気の残滓があることから彼女の言う妖怪はいるのだろう。
「こりゃ、骨が折れそうな仕事を引き受けちまったかもしんねーな」
 私の呟きに、妖怪の気配を感じていたリクオも小声で同意を示す。
「さっき、感じたのは妖気……だよね?」
「相当大物だぜ」
 敵意というよりは、警戒している方が強い感じがする。違和感に眉を潜めながら、私達は屋敷の中へと足を運んだ。
 リクオの家と張れるくらい大きな玄関にそぐわない見覚えのある札。秋房に書いてもらう札とは異なるようだが、それにしても似ている。
「菅沼さん、あの札は?」
 先頭を歩く品子に声を掛けると、彼女は振り返り札を見て諦めにも似た顔で大きな溜息を吐いた。
「品子で良いわ。菅沼なんて云い辛いでしょう。その御札、近所の神主さんがくれたものなんだけど全然効果がないの」
「効果ないなら貼るだけ無駄じゃない?」
 訳が分からんと首を傾げる巻に、品子は何とも説得力のある答えを返してくれた。
「効果はなくても、今より悪化しないなら貼るしかないのよ」
「なるほど」
 納得する清十字怪奇探偵団のメンバーを他所に、私は注意深く屋敷の中を見て歩いた。
 ところどころに貼られた御札は、まるで霊道を作るかのように道になっている。
「ここよ」
 夥しい数の札に一同唖然とする中、彼女の母親であろう女性が私達を見て大きな溜息を吐いた。
「品子ちゃん、また新しい人を連れてきたのね。お祓いなら、神主さんが毎日来てくれてるじゃない」
 上座に陣取っている小太りの眼鏡を掛けた男に、私はゾクゾクと悪寒が走る。
「そこの神社全然効かないんだもん」
 ハッキリと言い切る品子に、神主はしょぼくれている。品子は、神主の座っている位置に移動し腕をダランとさせ覆い被さるような仕草をしながら続けた。
「昨日もここに出たの。ここに立って覆い被さるように、そいつは私を見るの」
「覗き込むだけなんだよね?」
 カナの言葉に、品子は首を横に振り腕に巻いていた包帯を外して見せた。
「これを見て、昨日はこうして痕がつくまでキツク握り締められたの」
 くっきりと残った痕に、部屋の中の空気が下がる。巻や鳥居が、話と違うと騒ぎ出しゆらが居ないことに対し、文句が出るわ出るわ。
「邪魅は、他人に恨みを買ったものに憑く悪い妖だ。今はその程度で済んでいるかもしれないが、現にこの町では何人もが邪魅に取り殺されているんだよ」
 まるで人の不安を煽るような言い方をする神主に、私は違和感の正体を確信する。
「失礼ですが、神主さんは花開院の流派を組んでらっしゃるんですか?」
「そうだが、どうして分かったのかね?」
 本当に一瞬だが、彼の目が鋭くなる。私は、余所行きの笑みを浮かべて切り返した。
「じーちゃんが、俺のためにもの凄くご利益あるからって貰ってきた御札に何か似てたんですよ」
「へぇ、そうなのかい」
「ええ、貰っても何も変わんなかったですけどね」
 秋房に書いて貰った札を見せると、
「これは立派な札だ。君専用に作られたものだね。肌身離さず持っていると良い」
 ニッコリと胡散臭い笑みを浮かべて持っておけと言って来た。
「俺のために作ってくれたって本当なんですねー」
「私は、この辺でお邪魔するよ。神社に戻らないといけないからね」
 愛想笑いを浮かべる私に、神主は腰を上げもう帰ると言い部屋を出て行った。大方、何か良からぬことを考えているに違いない。
 神主の気配が無くなったのを確認した私は、思いっきり渋い顔していただろう。
「清継君?」
 カナの声に、私は我に返りまずは屋敷の中を隈なく調べる必要がありそうだと品子に提案をした。

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