小説 | ナノ
act67 [ 68/199 ]
これでやっと終わった。空を見るともう夕焼けになっている。教室にいるカナを拾って帰るかと帰る算段を立てていたら、ガシッとスカートの裾を掴まれた。
リクオかと思い睨みつけたら、彼はキョトンとした顔で私を見ている。
じゃあ、一体誰だ? 手の主を見ると、凛子がスカートの裾を握っている。
「どうした?」
「あ、あの……」
「うん」
「その……」
ハッキリしない子だ。辛抱強く待つこと3分、漸く開いた口から出たのはお礼の言葉だった。
「……助けてくれてありがとう」
「おう、あんたが無事で良かった。怪我したところ、ちゃんと水で洗って消毒しろよ」
安心させるように笑いかけたのが不味かったのか、バッと顔を反らされてしまった。
「佐久穂」
リクオの機嫌を表すかのような低い声に、私はブルリと身震いする。
「俺は、家長回収して帰るわ。お前は、その子を家まで届けろよ」
私は、シュタッと手を上げそれだけ言うと早々にその場を去った。
だってさ、夜のリクオに絡まれて翌日腰痛になりましたなんてことになったら目も当てられない。
カナと鉢合わせしたら、それはそれで面倒なのだ。後ろで喚くリクオに心の中で謝罪しつつ、私は俊足を誇る足で敵前逃亡したのだった。
「おい、佐久穂! 待て……チッ、行きやがった」
柄悪く舌打ちするリクオに、凛子はおずおずと声を掛ける。
「あの……」
「あ?」
「助けてくれてありがとう」
律儀にお礼を言う凛子に、リクオの頬がフッと緩む。
「気にすんな。それより、驚いた。俺みたいな奴が他にもいるなんてな」
その言葉に、凛子の目が大きく見開かれる。そんな凛子に、白蛇がポツリポツリと話し始めた。
「ワシがお世話になっている妖怪任侠組織。それが奴良組じゃ。ぬらりひょん様は、魑魅魍魎の主であり弱気存在の妖怪を守る偉いお方なんじゃ。こうして土地神をしていられるのも単に奴良組のお陰なんじゃ」
しんみりとした雰囲気を漂わせながら話す白蛇の言葉を二人は静かに聴いていた。
「私、今までなるべく大人しく目立たないようにしてきた。だって、人間でも妖怪でもない中途半端な存在だから……」
「中途半端で何が悪いんだい? 人の部分も妖怪の部分も全部ひっくるめたのが俺だなんだって言い切った奴が居たぜ」
「さっきの子?」
「おう、お前あいつの前で言ってみろよ。同じこと言われるぜ」
リクオと違い女の子だからオブラートに包んだ柔らかい言い方を選ぶのが目に浮かぶ。
凛子は、目をパチパチと瞬きしたかと思うとクツクツと笑みを浮かべた。
「フフッ……ありがとう。堂々としている貴方を見てたら勇気が出た」
「そうかい。そりゃ良かった」
晴れ晴れとした彼女に、リクオは思い出したように彼女に向かって言った。
「あいつに惚れんなよ。俺のだからな!」
リクオの言葉に首を傾げる凛子だったが、彼が言った意味を理解するのは次に佐久穂と出会う時のことである。
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