小説 | ナノ

チョコレートの行方.2 [ 27/145 ]


 お風呂から上がった私が、濡れた髪を軽く拭きながら台所へ戻ると綺麗サッパリと無くなっていたチョコレートに絶叫した。
「な、なーいっ!! 半日掛けて作った最高傑作が!!!!」
 ガクッと崩れ落ち嘆く私だったが、チョコレートが食べられないと知った時のぬらりひょんの怒りが目に浮かび青ざめる。
 自分のせいではないが、そんなこと聞き入れてくれるような人……じゃなかった。妖怪じゃない。
「に、逃げよう!」
 ほとぼりが冷めるまでどこかに身を隠そう。台所を後にした私は、キョロキョロと挙動不審さを増しながら廊下を駆け抜ける。
「ブッ! 痛たた…」
 ボスッと何かに辺り、顔を上げると狒狒が立っていて驚いた。
「え、えっと……さようなら」
「逃がすか。佐久穂から甘い匂いがする。もっとくれ」
「は? 何をですか」
 ギューギューッと抱きしめてくる狒狒の腕の強さに、私は息苦しくてバシバシと彼の背中を叩く。
 どこか様子のおかしい彼は、熱に浮かされたように私の体を弄っている。
「ちょっ、どこ触ってるんですか!! ひゃうっ!? はわわっ、脱がせないで下さい」
 裾に手を差し入れてきた狒狒に私は我慢できずガスッと彼の急所を蹴りつける。
 手加減なしに股間を蹴り上げたのだ。痛いだろう。前のめりで蹲る狒狒から距離を開け又も逃亡をする。
「一体何がどうなっているの!? あ、あり得ないわ…」
 少なからず私は、狒狒に子ども扱いされていた。断じて女として見られた覚えはない。無いのに、この変わりよう。まるで惚れ薬を飲んだような感じだ。
 復活した狒狒が私の名前を呼びながら追いかけてくる。どこかへ身を隠さなくては。そう思って入った部屋には、牛鬼がいた。
「牛鬼さん、匿って下さい!」
 彼の羽織を頭から被りギューッとしがみ付く。ガラリと開いた襖の向こうには、狒狒の姿があった。
「牛鬼、佐久穂知らねぇか?」
「玄関の方に走って行ったぞ」
「そうか。ありがとうな」
 狒狒は、襖を開けっ放しで玄関の方へ走っていった。狒狒の気配が無くなり、ホッと息を吐いていると襖を閉めて戻ってきた牛鬼に何故か押し倒されていた。
「えっと……牛鬼さん?」
「匿ってやったんだ。例くらいして貰うぞ」
「後で差し入れしますから、退いて下さい」
「差し入れより、お前が良い」
「ちょっ……ん、ふぅ…んん」
 強引に重ねられた唇は、意外としっとりとしてて冷たかった。ねじ込まれた舌に翻弄され、舌を絡め取られきつく吸い上げられる。
 ビリビリと甘い刺激に耐え切れず、私はキュッと牛鬼の着物を握りしめる。
「はっ……はぁはぁ」
 口吸いを止めた彼は、そのまま行為に持ち込もうと私の着物の帯を解く。
 匿っただけで貞操を求められるのは勘弁してくれ。
「いっ、やぁああー!!」
 ガスッと又も急所に膝を入れ難を逃れると、抜き取られた帯に構うことなく部屋を出た。
 狒狒・牛鬼の様子がおかしいとなると、チョコレートを食したものは彼らと同じ症状を発症させているに違いない。
 どこへ行っても危険なんじゃなかろうか? それなら、さっさとぬらりひょんに怒られた方が何倍もマシである。
 ついでに帯を借りよう。うん、そうしよう。
 私は、袂の前を押さえながらバタバタと廊下を駆け抜けぬらりひょんの部屋に飛び込んだ。

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