小説 | ナノ
チョコレートの行方.1 [ 26/145 ]
バレンタイン企画第五弾! ごまあざらし様、企画参加&素敵リクエストありがとう御座います。総大将世代で襲われまくる主人公になりました。R指定は無かったので寸止めにさせて頂きました。エロもありません(笑)楽しんで頂けたら幸いです。
神月佐久穂、十九歳。神社の蔵を整理していたら、時空だけでなく次元を超えてしまった。なんてこったい!
二次元の中に迷い込んだ私は、ひょんな事で出会った妖怪の大将ぬらりひょんに何故か気に入られ飯炊女になっていた。
妖怪は怖いよ。特に雪女の雪麗に、嫉妬のあまり殺されかけるし。身の危険を感じたことは、一度や二度じゃない。
でも、妖怪も人間と一緒でお腹が減るわけで美味しいご飯を提供し続けると取敢えず『上手い飯が作れる女』と認識され、害はないしまぁいっかという流れで置いて貰えるようになった。
妖怪の大将に興味がないのも大きな一因だと思う。別嬪が好きらしい妖怪の大将殿は、極々普通の顔を持つ女には興味がないし単に珍しい且つ飯が上手いという理由だけで置いている。
そう考えると、雪麗が可哀想になってくる。大将命だもんね、彼女。
京都の2月は、ハッキリ言って寒い。異常気象に慣れきった現代っ子の私からしたら、毎日朝起きると氷が張っている状況なんて考えられない。
「う〜〜っ、寒いよぉ」
ハァと息を吐くと白い靄が出る。今日も今日とて井戸に氷が張っているのだ。この分だと氷点下は回っている。
冬の洗濯は嫌だが、しなけりゃ着るものがない。せめてお湯を沸かしてから掛かろうか。
そんな事をツラツラと考えていたら、大広間から変な声が聞こえてきた。
「ウゲッ! 何じゃ、こりゃ。苦いぞ、この豆」
ペペッと吐き出すぬらりひょんの姿が見え、私はフラッと声がした方へと足を運んだ。単なる興味本位での行動が、後に大きな騒動を引き起こすとは思いもしなかったのだ。
「香りは良いのに、こう苦いと食えたもんじゃねぇ」
渋い顔をしながら手の中にある豆を睨みつけるぬらりひょんに、私はそりゃそうだと笑う。
「その豆は、カカオ豆と言ってそのままで食べるものじゃありませんよ」
「何じゃ、佐久穂。おめぇ、この豆の食べ方知っとるんかい」
「食べ方というか、加工の仕方ですけど。それと砂糖を原料にしたお菓子でチョコレートというものがあります。美味しいですよ」
受験や朝食によく食べたものだ。私には馴染みが深くても、彼らには全く未知の食べ物のようでうっかりぬらりひょんの興味を引いてしまった。
「よし、佐久穂これを使ってちょこれーととやらを作ってくれ」
「は?」
「だから、ちょこれーとが食いたいんじゃ!」
「面倒臭っ!」
思わず出てしまった心の言葉に、ぬらりひょんは総大将命令だと言ってカカオ豆の入った袋を押し付けてくれた。
こうなったら、洗濯物を誰かに押し付けてやる!
「チョコレート作りは結構時間が掛かるんですよね。洗濯物や掃除があるので、代わりに誰かしてくれるって言うなら作ります」
「……仕方がないわね。洗濯物は私がしてあげるわ。掃除は、納豆小僧達がすれば良いんじゃない。その代わり、そのちょこれーと食べれるわよね」
ちゃっかりしている雪麗に、私は乾いた笑みを浮かべる。菓子と名の付くものには心を奪われるのか、現金過ぎる。
「用意させて頂きます」
どうせ食べる人数は限られているだろうし、横取りしようものならぬらりひょんが怒るだろう。
私は、チョコレート作りに専念するべく台所へと篭ることにした。
一からチョコレートを作ったことはないが、知識としてはある。皮を剥いて炒ったり潰したり混ぜたりとハッキリいって面倒臭い。
かなりの時間が掛かるので、手作業でチョコレートを作っていた昔は本当にすごいと思う。
チョコレートが出来上がるのは何時になるんだろうかと、思わず遠い目をしてしまったのは言うまでもない。
半日掛けて完成させたチョコレート。味見で食べてみたが、素人にしてはなかなかの出来栄えだと思う。
「夕飯の後に出せば良いかな?」
チョコレート臭くて取敢えずお風呂に入りたかった私は、皿に布巾を掛けて台所を後にした。
台所を離れた隙に、まさかつまみ食いをするような意地汚い妖怪がぬらりひょん以外に居るとは思わなくて、皿に盛られていたチョコレートは彼の口に入ることなく綺麗サッパリ無くなってしまうのだった。
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