小説 | ナノ

act34 [ 35/199 ]


 散々なGWが終わった後、私は逃げ出したい気持ちでいっぱいになりながらも苔姫のところを訪れていた。
 神殿の戸を叩いた瞬間、怒号と共に飛んできた盃をいつものように避けるが第二陣とばかりに酒瓶が飛んできて思いっきり頭に直撃した。
「〜〜〜〜っ!!!」
 顔を抑え蹲る私に、仁王立ちした苔姫が私を見下ろして言った。
「三羽烏から報告は受けておる。わらわの忠告を無視して、今度は髪紐をぬらりひょんの孫に貸すとは……おぬしの頭は空けなのか?」
「す、すみません」
「謝って済めば警察はいらんのじゃ! わらわが、丹精込めて作った髪紐を失くす壊す解かす……一体これで何度目だと思っておる! もう勘弁ならぬ!! おぬしには、約束通り奉納舞をさせるからなっ」
「それだけは、勘弁して下さい」
 ドス黒い笑みと共に宣言された奉納舞の決定に、私は殺生なと泣きつくが即座に却下された。
「約束は約束じゃ。それと、ぬらりひょんに頼んで護衛をつけてもらう」
「そ、そんなぁ……」
 フンッと鼻で笑われ、決定したことを覆す気はないと断言される。
 三羽烏にも護衛をつけると言われたばかりで、何故自分がと嘆いたところで聞き入れて貰える要素など無いに等しい。
 これもリクオと関わったことが、最大の原因とも言えるだろう。
「今度は髪紐ではなく頑丈な首輪にしてやろう」
「私は、まだ人でいたいですっ!!」
「安心するがよい。丈夫な白金で作ってやろう。鍵がないと外れないようにせんとなぁ。そうじゃのぉ、深い紫水晶をあしらい可愛らしく仕上げてやる」
 フッフッフッと不気味な笑みを浮かべる苔姫に私は理不尽だと泣きたくなった。
 壊したのも無くしたのもリクオなのに、何故私がこんな仕打ちを受けなければならないのだ。
「……最悪だ」
「何か言ったか?」
 聞こえているくせに、聞こえない振りをする苔姫に私は逆らう気力もなく何もと反したのだった。


 苔姫から開放された私は、意気消沈したままフラフラと歩いていると突如腕を引っ張られた。
「うわっ!?」
 仰向けに倒れそうになった私だが、ポスンッと誰かの腕の中に納まる。この気配からして、恐らくぬらりひょんだろう。
 顔を上げると私の感は外れてなかったようで、ウゲッと顔を顰める。真昼間から会おうとは思いもしなかっただけに心労は大きい。
「……変態将かよ」
「なんじゃ、その不名誉且つ失礼なあだ名は。仮にも恋人を捕まえて言う言葉じゃねーな」
 不機嫌そうに寄せられた眉間の皺の深さが、機嫌の悪さを物語っている。
「何の用だ」
 ぬらりひょんの言葉をスルーしながら用件を聞くと、彼は私の顔見た後に盛大な溜息を吐いた。物凄く失礼な妖怪だ。
「佐久穂、あんたに話がある」
「俺は無い」
 キッパリと断ったところで、ぬらりひょんがそれを聞き入れるとは思ってない。
「まあ、そう言うな。ここでは、何だからのぉ。場所を移動するぞ。邪魔が入らんように、そうじゃな……化け猫横丁にでも行くか」
 案の定人の話を聞かない奴は、私の体を抱き上げたかと思うとヒョイヒョイと人様の屋根の上を飛びながら一番街へと走り出す。
 ささ美といい、ぬらりひょんといい、何故私を姫抱っこするのだ。
 おんぶしてくれた方が、何倍もマシだというのに主張したところで黙殺されるのが落ちである。
 無理矢理つれてこられた化け猫横丁の入り口で、私は抱えられながら中へ入る。
「おりょ、総大将じゃねーか。一人で来るなんざぁ、久しぶりだねぇ」
 大蛇を体に巻きつけた蛇骨婆が、クツクツと笑いぬらりひょんを歓迎している。
「偶には良いじゃろう。化猫屋で飲みたい気分なんでな」
「そうかい。まぁ、ゆっくりしていきな」
 ぬらりひょんは、番頭をしている蛇骨婆と一言二言交わした後、何食わぬ顔で暖簾を潜り妖怪の酒場が密集する空間へと足を踏み入れる。
 私を抱えているにも関わらず、気づかれることなくやって退ける辺り流石五百年以上生きているだけある。
「化猫屋って何だよ」
「ワシの下僕が営んでる食事どころじゃ。飯だけじゃねぇ。賭博や逢引茶屋もやってる」
 後半の言葉が物凄く不穏な気配を感じた私は、ギョッと体を強張らせると彼はクツクツと笑った。
「腹ごしらえしながら話をしようや」
「……それなら良いけど」
 丁度お腹も空いていたので、了解したのが悪かった。
「色事をするには丁度良い場所じゃしな」
「何か言ったか?」
 ポツリと小さく呟かれた言葉を聞き取れなかった私は、後で嫌というほど後悔する。タダ程怖いものはない。そう実感するのは、少し後の話である。

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