小説 | ナノ

act29 [ 30/199 ]


「もぉ〜やだぁああ」
「帰ろうよぉー。こんな山」
 牛鬼の話を聞かされ一番最初に泣き言を言い出したのは巻と鳥居だった。
「そうだよ! 彼女達の言うとおり帰った方が良いよ」
 リクオの反応も上場だ。彼なりにヤバイ気配は感じているのだろう。
「よーし、奴良あんた付いてきな」
 巻がリクオの肩を抱き寄せ山を降りようとしている。
「今降りたところで帰りのバスはねーぞ。それに、もうすぐ日も落ちる。妖怪云々の前に野生の獣に襲われるか遭難するかだな。それでも良いなら勝手に帰れ」
 私の言葉に、彼らの足がピタリと止まる。うーん、後一押しってところか。
「使用人が時々来ているが、何かが出たって話一度もないな。対妖怪用の対策も取ってある」
 私の言葉に、顔色を悪くする氷麗。対妖怪用と言っても大したことはしていない。精々建物が壊れないように協力な結界を作る札を貼ったくらいだ。私が呼び入れない限り入って来れない。
「ハハハッ、牛鬼なんて伝説じゃからあの爪も誰かの作り物かもしれんな」
 散々脅しておいて作り物だという化原にリクオは不審を感じている。まあ、こうも簡単に言葉をコロコロ変えられては困るしな。
「ゆらも居ることだし、最悪な状況は免れるだろう」
「え? うち……(今のうちにレシートとお札分けとかなあかん)」
 ササッと財布の仕分けを始めたゆらに、私は一抹の不安を覚える。
「美味い飯と温泉が待ってるんだがなぁ。本当に帰るのか?」
 最終確認とばかりに聞くと、飯と温泉に釣られた彼女達を引き止めることに成功した。
「それじゃあ、ワシは山を降りるとするよ。夜は危ないから絶対に出ないほうが良い」
「ああ、帰れ帰れ」
「清継君!」
「道中気ヲツケテ」
 思わず本音が口に出てしまった。カナの叱責に、顔を顰めつつも棒読みでやり過ごすがまた睨まれる。
 あのじいさん、こうムズムズするんだよ。生理的に合わないのだろう。
「じゃあ、お前ら行くか」
 私は、清十字怪奇探偵団のメンバーを引き連れ別荘の中へと案内した。


 和を基調にした趣のある内装に、一同唖然としている。
「す、すげぇ……高級旅館に来たみたいっす」
 異様に興奮する島に、私は苦笑する。
「元々は、祖父の登山好きの別荘なんだ。家が洋館だからな。別荘くらいは、自分の趣味にと走ったらしい。結構良い趣味してるだろ」
「部屋は二階にある。取敢えず荷物を置いてからだな」
 顎でしゃくり私は先導するように二階へ上がる。
「六部屋しかないから、奴良は俺と相部屋な」
「ええっ! な、なんで?」
 ガシッと胸倉を掴み詰問するカナに、私は変なこと言ったかと首を傾げる。
「島は、寝相が悪いから」
「何で島君の寝相を知ってるの!?」
「そりゃ、修学旅行で同じ部屋になったことがあったからだ。奴良も知ってるだろう。こいつの寝相の悪さ」
「へ? あ、う…うん」
 ギクシャクするリクオに顔を顰めるも、島と同じ部屋だけは勘弁したいので決定したことだからと言うと、
「変なことされそうになったら声あげるんやで!」
 などとゆらに言われる始末。リクオを一体どんな目で見ているんだ、こいつは。
「変なことするような奴だったら一緒の部屋になるか。阿呆なこと言ってねーで、さっさと荷物置きに行け」
 アホくさっと話をぶった切り、私は荷物を置くべく一週間お世話になる部屋へと足を運んだのだった。

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