小説 | ナノ

act28 [ 29/199 ]


「清継君、まだぁ〜」
 登山早々に根を上げるなんて、本当に根性が無い。巻の死にそうな声に、私はサクッと切り捨てる。
「まだに決まってんだろう。中腹も行ってないぞ」
「足疲れたよぉ」
 ブーブーと文句を垂れる巻に、私はハァとため息を吐く。妖怪の気配が徐々に濃くなってきている。
 そろそろ、鈍感なゆらでも祠に気づくはずだ。梅若丸の祠イベントがあった気がするが、何たら先生との接触はしていない。どう話が転がるのかは不明である。
「あれなんやろう?」
「祠じゃないっすか」
 島の言葉にゆらは、突如道から外れ獣道を歩き奥へ入っていく。
「ゆら、危ないから戻れ」
「ちょっと待ってや。確認するだけやし」
 私の注意もなんのその。適当に人の話を聞き流しながら進んでいく。
「ここからじゃ見えないね」
 カナが目を凝らして文字を読もうとしているが、霧が深くて読めない。にも関わらずリクオが読み上げてしまう。伊達眼鏡の意味がないぞ、リクオよ。
 思わず心の中で入れてしまった突っ込み。最近、突っ込みが多くなっている気がする。私の周りにはボケ属性が多いということか。
「あ、ほんまや」
 ゆらは、祠の横に刻まれた慰霊碑を見てポカンとしている。本当ならここで何たら先生とやらが登場する予定なのだが、コンタクトも取っていないのでいる筈が……ないわけではなかった。
「やあ〜嬉しいなぁ。こんな若い年で妖怪が好きな女の子が居るなんて」
「ううっ……」
 若干引き気味の清十字怪奇探偵団のメンバーに私は苦笑を必死で堪える。汚いなりをした変なおっさん……ではなく、男の出現に驚かないわけがない。
「どちら様ですか?」
「わたしかい? 作家にして妖怪研究をしとる化原だよ」
「うわぁ、変人が現れちゃったよ……」
 巻の歯に衣を着せない発言に、一同固まるが内心同じことを思っているだけあって誰にも咎められない。
「俺ら先を急ぐんで」
 相手にしてはいけないと本能が言っている。私は、それに従うべく先を進もうとしたら止められた。
「この山の伝説を君達は知っているかい」
「伝説? もしかして、清継君が言ってたやつのこと?」
 疑問符を浮かべる鳥居に、私はそうだと頷くことで肯定した。
「梅若丸の伝説でしょう」
「おお、君は知ってるのだね。是非、私の助手に……」
 諸手を上げて喜び迫る化原に、私は超遠慮したいとリクオの背中に回り逃げの体制を取る。しっかり、リクオを盾にしてだ。
「……なんで僕の後ろに回るのかな?」
「俺は、あの手のタイプが苦手なんだよ。お前、妖怪好きだろ。ほれ、行って来い」
 ボソボソとやり取りする私たちに、カナとゆらの視線が突き刺さる。
「何やってんの、あんたら」
「あ? 奴良が、化原さんの話を聞きた…」
「誰もそんなこと言ってない。それ以前に僕に押し付けないでよ」
「うるさい! あれと一緒にされたら、俺の精神が参る」
「君も梅若丸の伝説が聞きたいのか。それなら、特別に講師してしんぜよう」
「「黙れおっさん! 取り込み中だっ」」
 リクオと一緒に一言一句違わない言葉を化原に投げつけると、傷ついたのかズーンッと落ち込んでいる。
「僕に押し付けなくても、花開院さんとかに頼めば良いじゃないか。妖怪に詳しいんだし」
「ゆら達を怪しげなおっさんの餌食に出来るわけねーだろう!」
「僕は良いって言うの!?」
「男だし、(妖怪だし)、実害はお前だけで済むし。俺達が救われるなら何でもいい」
「同じ男なら島君がいるでしょう!!」
「こいつは、お前が突破されたときの保険だ」
 キッパリと言い切る私に、リクオは大きなため息とともに脱力している。
「相変わらず、男に対してきついよね。君は」
「褒めても何にも出ねぇぞ」
「褒めてないし」
 スパンッといい切れ味の突込みを披露したリクオは、渋面を浮かべながら宣った。
「話を聞くなら皆で聞いて行こうよ」
 ドス黒い笑みを浮かべて言われてしまえば、断ることなんて出来なかった。これが、次期三代目になる器か。
 小休憩と称し、私たちは梅若丸伝説に耳を傾けることとなる。
 自分で話すことを考えれば楽になりはしたが、精神疲労は計り知れない。
 話が終わるころには、極度の疲労にぐったりとした私が居たのだった。

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