小説 | ナノ

act26 [ 27/199 ]


「は? 今何て言ったの?」
 思わず聞き返した私に、母は凄く良い笑顔で宣った。
「捩目山にある別荘を掃除してきて欲しいの。どうせ、GWで暇を持て余しているでしょう? 友達呼んでも良いから、ね」
 単に息子が邪魔だからどこかへ行ってくれと言いたいのだろう。猫なで声でご機嫌を取ろうとする母に、私はハァとため息を吐く。
 GWで捩目山と言えば、牛鬼編だ。リクオの覚醒する重要なイベントでもある。面倒臭いが、お膳立てしなければ話は進まない。
「分かった。クラブの合宿先として使わせて貰うよ」
「はい、これが鍵ね」
 母から預かった鍵を受け取り、私はこっそりため息を吐いたのだった。


 本格的に活動を開始した清十字怪奇探偵団は、私を含め九人で構成されている。放課後に私のクラスで活動するのだが、内容は妖怪談義が専らだ。
 講師をゆらに向かえ、私がそれについてフォローを入れる。若干二名は真剣に聞いちゃあいないが、別に強制はしない。
「お前ら、GW何か予定はあるか?」
「へ? GWっすか。俺は特に何も無いっす」
 キョトンとした顔で首を傾げる島に、私はメモを取りながら他の連中の都合も聞いていく。
「家長、お前はどうだ?」
「私も無いよ。紗織ちゃん達も無いよね?」
「おお、超暇だぞ! 予定無いし、清継君どっか連れてって」
 ウフッと可愛こぶりっ子する巻に、私は呆れた目で彼女を見つめるとヨヨヨと目頭を押さえ大げさに嘆いている。
「鳥居も暇ってことだな」
「うん」
 サラッと巻の存在を無視し流す。ゆらに視線をやると、思いっきり睨まれた。
「清継君、何か要らんこと考えてんのとちゃうやろな」
 こんな時だけ鋭いゆらに私はシレッとした顔で交わす。
「ないない。必要なことしか考えてない。ゆらは、忙しいから不参加と……」
「誰もそんなこと言っとらへんわっ!」
「じゃあ、暇なんだな」
「グッ……」
「沈黙は肯定とみなした。奴良、及川、倉田はどうだ?」
「僕も大丈夫だよ」
「私もです」
「俺もだ」
 いい返事だ。しかし、倉田は後に残念なことに参加できなくなるので頭数には入れないでおく。
 私は、ニンマリと笑みを浮かべ合宿の話を持ちかける。
「GW、俺ん家の別荘で合宿するぞ」
「マジっすか!?」
「いやっっほー!! 清継君、愛してる〜」
 両手を広げて抱きつこうとした巻の頭をガシッと掴んだゆらと、私の目の前に立ちはだかる氷麗、巻の手を掴んでいるカナ。
 三名の空気が、物凄く冷たく感じるのは気のせいじゃない。特に、氷麗から発せられる冷気が寒かった。
「冗談も程ほどにせんとな」
「そうね。同感だわ」
「フフフフッ」
 間近で見た女の確執に私はブルブルと肩を震わせる。面白くて震えているのではない。怖くて震えているのだ。
「巻さんが現金なのは元からでしょう。それより、急に合宿って何かあるの?」
 サラッと毒を吐くリクオに私は目をパチパチさせる。人当たりの良い彼が、珍しいこともあるもんだ。
「うちの親が邪魔だからGW中に別荘の掃除してこいって言われてな。どうせなら、お前らも一緒にどうかと思ったんだ。交通費は、勿論言いだしっぺの俺が出す。山奥だが、露天風呂もあるしのんびり出来ると思うぞ」
「単に掃除するの手伝って欲しいだけなんじゃあ……」
「そうとも言う」
 リクオの心底呆れたと云わんばかりの視線が痛い。そんな目で見なくても良いじゃないか。牛鬼の敷地だし、妖怪は出るし一人は怖いのだ。
「しょうがないなぁ。良いよ。手伝ってあげる」
「サンキューな!」
 カナの言葉に、私は満面の笑みを浮かべてお礼を言うとボッと顔を赤らめた。
「熱でもあんのか?」
「な、何でもない!」
 首を横にふる彼女に首を傾げていると、ガスッとゆらから肘鉄を食らう。思いっきり横腹に入ったぞ、肘が。
「痛ぇな! 何すんだよ」
「別にぃ……」
 プィと顔を背けるゆらをひと睨みした後、最終的な参加者の統計を取る。
「GW合宿に参加する奴、手上げて」
 おお! 全員参加だ。やった♪ これで掃除する人間が一気に七人もゲットできたぜ。
「じゃあ、詳しい内容は明日プリントで渡すから各自目を通しておくように」
「ねえ、行き先は?」
「ん? ああ、言ってなかったか。捩目山だ」
 行き先を聞いたリクオの顔が少し強張る。まあ、そうだろう。彼には、これから試練が待っているのだから。
 さあ、賽は投げられた。私は、傍観に徹することにするとしよう。

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