小説 | ナノ

act16 [ 17/199 ]


 リクオが必死になって妖怪達を隠している一方、私とゆら・カナ・途中で合流した島を引きつれ彼の家の前まで来ていた。
「噂に違わぬボロ屋敷……」
「風情がある日本家屋と云うんだ」
「そおっすね!」
 思っていても口にするなと島を睨むと、彼は調子よく相槌を返す。
「ごめん、遅くなって」
「奴良、本当に遅ぇーよ! 妖怪屋敷で妖怪談義だ!」
「島君、失礼だよ」
 こいつ、しばいてやろうか。失礼極まりないことを宣う島にカナが突っ込みを入れる。本当にその通りだ。
 しかし、相変わらずこの家……滅茶苦茶妖怪の気配がする。ちらりとゆらを見るが、全然気付いていない。
 本当に、これで花開院当主になろうとしているのだからある意味凄い。
 通された部屋は、だだっ広い和室だった。二十畳くらいあるのではないかと思うほど広い。客間が、これだけ広いのだ。
 一体この家には、何部屋あるのか気になる。隙間風が通りガタガタと襖が揺れている。
「何か出そう……」
「奴良君、こんな家に住んでたんだね」
 失礼なことを宣う面々に私の機嫌も急降下する。ああ、早く帰りたい。
「良い雰囲気になってきたところで、花開院さんに妖怪レクチャーをお願いしたいと思いますっ! 先生、よろしくお願いします」
「そうやね。まず、この間の……」
 Pluluと着信音が鳴り、ゆらの言葉を遮った。私は、マナーモードにするのを忘れていたのを思い出し慌てて携帯を取り出すとサブディスプレイに『母さん』の文字があった。
「悪い、ちょっと電話してくる。先に進めといて」
「何言ってんの! あんたが、一番聞いておく必要があるんやで」
「聞けなかった部分は、後で聞く。奴良、悪いが廊下に出るぞ」
「う、うん」
 ギャイギャイと喚くゆらを放置し広間を出た後、私は携帯の受信ボタンを押下し電話に出た。
「あ、清継? 悪いんだけど、母さん仕事で遅くなりそうなの。夕飯は、一人で食べてね」
「分かった。母さんも、あまり無理すんなよ」
 メールにしてくれと思いつつも、養ってもらっている以上は文句は言えない。一言二言話した後、電話を切るとボトッと頭の上に何かが落ちてきた。
 なんだろうと頭に乗っているものを鷲掴み目の前に持ってくると、かつて助けた家鳴りがいた。
「清継君、電話終った?」
「まだだ! 長引きそうだから、一旦出るわ」
 家鳴りを掴み廊下を駆ける。大広間から離れた私は、キョロキョロと誰も居ないのを確認し家鳴りを床に置いた。
「キヮァ〜
 ヒシッと手にしがみ付きながら円らな瞳を潤ませ喜ぶ家鳴りに私は頭を抱えたくなった。
「悪いな家鳴り、お前と感動の再会ごっこをしてる暇はないんだ。お前も知ってのとおり、今日来ている連中の中に陰陽師が居るんだよ。祓われたくないだろう、な? だから放せ」
「キュワキュワッ!!」
 ブンブンッと首を横に振り嫌がる家鳴りに、私は非常に困っていた。5年前も同じようなことをしていた気がする。
 どうしようと本気で思っていたら、ガラッと襖が開いて驚いた。ビクッと身体をビクつかせる私と、同じように身体をビクつかせる妖怪がいた。
 よく見たら、5年前に会った首なしじゃないか。相変わらず色男だな。
「君、あの時の子供?」
 やっぱり覚えてたか。チッと舌打ちを一つし、片手は家鳴りを開いたもう片方の手で彼の腕を掴み部屋に入る。足で器用に襖を閉めた後、首なしに詰め寄った。
「陰陽師の末裔が来てるの知ってんだろう!! なんで隠れてないんだよっ」
「隠れる場所が思い当たらないんだよ」
 嘘だ。こいつ、絶対他の連中(女限定)を今まで隠していたに違いない。
「それより君、何でここにいるの?」
「俺だって好きでここに居るわけねーだろう! 寧ろ、奴に見つかる前に帰りた……」
「奴とは誰じゃ?」
 気配なく後ろに立つぬらりひょんに、私はビクッと大げさなくらい身体を揺らした。ギュッと握ってしまった家鳴りが、グエッと変な声を上げたのは気にしないでおこう。
「出たな妖怪の親玉!」
「相変わらず口が悪い。5年で更に別嬪になったのぉ」
 ニヤッと嫌な笑みを浮かべるぬらりひょんに、私はブルブルと肩を震わせる。こいつ、人をからかって楽しんでいる。
「こいつと話がある。首なし、家鳴りを連れて他の部屋に隠れとれ」
「俺は無い。あいつらを放ったらかしにするわけにはいかんから、部屋に戻る」
 逃げの体勢を取るが、ぬらりひょんも負けてはいなかった。
「5年前のように逃げられると思うなよ」
 そう宣言され逃げるのは難しいと判断した私は、手の中に居た家鳴りを解放する。ピタッと足に引っ付き離れようとしない家鳴りに、どうしたものかと考えた。
「じいさん、家鳴りは何で俺から離れようとしないんだ?」
「あ? お前さんに5年前のお礼がしたいんだと」
 何て律儀な。人間でもここまで律儀な奴はいない。私は、腰を下ろし家鳴りの頭を撫でてやる。
「別に礼なんて要らないぞ。欲しくて助けたわけじゃねーし」
「キヮァー、キュワァ」
「全然何言ってんのか分からん。じいさん通訳」
 通訳係に任命されたぬらりひょんは、顔を顰めたが特に怒るわけでもなく通訳を始めた。
「お礼をさせてくれるまで離れんじゃと。熱烈じゃな」
 ケタケタと笑うぬらりひょんに、私は嬉しくないとぼやく。
「じゃあ、今度うちに来い。付喪神の話相手になってくれ。良いか?」
「キュワキュワ〜♪」
 家鳴りは無難にお礼をさせる方向で落ち着いたが、厄介なのは目の前のぬらりひょんだ。絶対何か企んでる。首なしと家鳴りを追い出した後、奴はにやりと人の悪い笑みを浮かべて言った。
「ワシの女になれ」
 性別無視していう事じゃない。ここが、リクオの家でなければ怒声を上げて殴り飛ばしていただろう。

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