小説 | ナノ

act10 [ 11/199 ]


 鴆と会った翌朝、顔色が宜しくないリクオを見つけて漸く本編が動き出したことを悟る。足元がかなりふらついているのがいい証拠だ。
「具合悪そうだな。寝不足か?」
「お早う清継君。うん…そうみたい」
 理由は分かってないのだろう。夜のリクオもちょっとは昼のリクオを労わってやればいいものを。
「やる」
 リクオに押付けたのは、愛用している医薬品のカフェドロップと100%オレンジジューズ。眠気覚まし用の飴には、カフェイン成分が入っており二日酔いの頭痛を和らげる効果がある。
 また、果汁100%ジュースはアルコールの分解によって不足している水分と、肝臓の働きのエネルギーとなる糖分を手軽に補うことができる。
 よって、体内に残るアルコールが尿として排出されるため二日酔いも軽減されるというわけだ。
「え? でも、悪いよ…」
 タダでもらうのは気が引けるのか、困った顔をするリクオに私は交換条件を出した。
「貸しひとつだ。水分補給は、マメに取れよ。楽になるから」
「……ありがとう」
 相変わらず押しが弱いのか、結局ジュースと飴を受取った彼は飴はポケットに入れジュースはストローをさして飲み始めていた。
 二人揃って校門を潜り下駄箱で靴を取り出していると、黒いオーラを纏ったカナに詰め寄られた。
「き〜よ〜つ〜ぐ〜く〜〜んっ」
「家長、お早う」
 ヒッと小さな悲鳴を上げるリクオはさておき、私は何事もなかったかのように挨拶をすると物凄い剣幕で怒られた。
「お早うじゃないわよっ!! 旧校舎で急に走り出して、私凄く怖かったんだからね!」
 それって私のせいじゃないと思う。眉間に皺を刻みながら文句を言うが、常識が通じるような相手ではなかった。
「だから、来るなって言ったんだ」
「心配だから仕方が無いでしょう!」
 喚くカナに耳を塞ぎたくなった。リクオに押付けて逃げようかと思っていたら、彼も島に捕まっている。
「リクオも見たよな? 見たよな? あの時…確かに旧校舎に居たんだ“妖怪”が! なのに気付いたら、家のベッドに寝てたんだ!! 倉田が送ってくれたらしいけど、リクオ! お前も見たよな? 見たんだよな?」
 襟を掴みガクガクと揺さぶる島の暴挙に、リクオの顔色が益々悪化している。二日酔いの上に強制シャッフル……ご愁傷様というか災難ボーイだ。
「不良と間違えたんじゃない? たむろしている不良が脅かしてきたじゃない」
 クスクスと笑みを浮かべる氷麗に、島は顔を赤らめている。彼女は、更に追い討ちをかけるように言葉を紡いだ。
「もしかして、気絶でもしちゃったのぉ? 情けないわぁ」
「いや、あはっははは…気絶なんてするわけないっすよ。覚えてる。そうそう、確かに不良だった」
「そうよ。そう簡単に学校に妖怪なんて出ないわよ」
 乾いた笑みと無理矢理取り繕った言い訳に、私はハァと溜息を漏らす。島よ、目の前の女は妖怪だぞ。呆れた目で二人のやり取りを見ていると、私に気付いた氷麗が声を掛けてきた。
「お早う清継君」
「お早う及川」
「はい、これ…返すのが遅くなってごめんなさい。お守り貸してくれてありがとう」
 氷麗が差し出したのは、苔姫お手製の真珠で出来た数珠だ。受取るとひんやりと冷たい。
「どう致しまして」
 それを腕に嵌め直していると、彼女はリクオに声を掛けた。
「あ、若。一人で勝手に登校したら困ります。はい、お母様のお弁当」
 隠す気がないのか、リクオに弁当を手渡している氷麗をカナが凝視している。見てて楽しいものがあるが、そろそろ教室に戻ってゆっくりしたい。
 私は、リクオを置き捨て教室へと向かった。まさか、今日三大ヒロイン全員が出揃う日だったとはつゆにも思わず気を抜いていた自分を殴りたいと後悔したのは数分後のお話。


 SHRで転校生の紹介があると担任教師から言われた瞬間、私は物凄く嫌な予感にかられた。
「京都から来ました。花開院ゆらと申します。どうぞよしなに」
 おしとやかに挨拶をするゆらを見て、私は思わず顔を伏せる。まさか、一緒のクラスになろうとは思わなかった。
 原作から外れているのだから、違うクラスになると踏んでいたのに神様は意地悪だ。
「席は……清十字の隣な。清十字、何寝てる。さっさと起きろ」
 空気の読めない担任を睨みつけながら渋々顔を上げると、目を大きく見開いたゆらが立っていた。
「清継君?」
「よぉ……」
 ヘラッと手を上げて挨拶すると、ゆらの顔が鬼と化した。つかつかと私の机の前まで歩いてきたかと思うと、バンッと両手で机を叩き怒り出した。
「よぉ、ちゃうわ! あんた、秋房兄ちゃんに札書いてもろたやろう? あれほど、危ないことしたらあかん言うてんのに何で聞き分けへんの!!」
「してない。してない」
「嘘やな。してへん言うなら、何枚も札は要らん。ただでさえ、あんたはよ……」
 ゆらが言おうとしたことを私は慌てて彼女の口元を手で塞ぎ言葉を遮る。
「それ以上言うなよ」
 周りには聞こえないように小さな声で釘を刺すと、ゆらはチッと舌打ちした後、私の顔を見て盛大な溜息を吐いた。
「まあ、ええわ。暫くこっちで修行するさかい、その間は守ったるわ」
「半人前陰陽師のくせにか?」
「うるさい! 黙っとき」
 茶化すとギッと睨みつけられた。私とゆらの独壇場と化したSHR。皆の疑問が渦巻く中、授業を知らせる鐘は、無情にも鳴り響くのだった。

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