小説 | ナノ

奥様は14歳.4 [ 56/145 ]


 一日中ぬらりひょんにベッタリされているとストレスが溜まるもので、彼らが寝静まる昼間に気晴らしを兼ねて市へ来ていた。
 本家に居たときもそうだが、基本的に私は外に出して貰えない。どうしても外に出るときは、誰かと一緒でなければ許して貰えなかった。
 そう考えると、今の私の行動はちょっとした冒険もありドキドキしている。
 店から然程離れていないところで軒を連ねる市に顔を出せば、珍しいものを売る店が所狭しと並んでいて面白い。
「わぁ、綺麗な簪!」
 真っ白な薔薇を象った簪に私はうっとりと眺める。雪麗に似合いそうな簪だ。値段を見ると、結構値が張る。
 お財布の中身を見ると少し足りなかった。しょんぼりと肩を落とす私に、店主が声を掛けてきた。
「どうだい。綺麗だろう。これは、白金っていう鉱物で出来た簪なんだ」
「銀ではないんですか?」
「おう、銀よりも硬く錆にも強い。銀ほど有名じゃないが、一級品だぜ」
 確かにそれは見ただけで分かる。が、買うだけのお金がないのも事実。
「欲しいんですけど、お金が足りないので良いです」
 申し訳なさそうに断れば、男は食いついてきた。
「幾ら足りねぇんだ?」
「えっと、後八文足りません」
 有り金を見せると、彼は少し考えて言った。
「よし、じゃあこうしよう。あんたが、店の手伝いを1週間してくれりゃあ今持っている金額で簪を売ってやろう」
「本当ですか!」
「嗚呼、男に二言はねぇ」
 私は、手付金として有り金を渡し翌日から彼の店で昼間だけ働くこととなった。


 彼が扱うのは、何も装飾だけではないようで台所に欠かせない包丁もあれば、お侍さんが腰にさしている刀もあれば、果ては神具もあったりと呆気に取られた。
 私は、お店を行きかう人に声を掛けては商品を紹介する。実演販売をしてはどうかと試したところ、それが項をなしたのかお店は連日大盛況だった。
「佐久穂ちゃーん、鈴くれへん」
 いつ現れたのかサッパリ分からない神出鬼没な自称陰陽師の花開院秀元に、私は顔を顰めハァと溜息を吐いた。
「また、抜け出してきたんですか? 是光さんに叱られますよ」
「えー、そんないけずなこと言わんでもええやん。佐久穂ちゃんに会いにきたのにぃ」
 クスンといじける姿に、私はウッと言葉を詰まらせる。事ある毎に絡んでくる秀元に、私はぬらりひょんと同じものを感じた。
「それは、ありがとう御座います。鈴は幾つ必要ですか?」
「十個」
「先日もそれくらい買われたのに、何でまたそんなに必要なんですか」
 呆れ顔で彼を見ると、飄々とした顔で言った。
「うん、新しい呪具作ったら、あら素敵☆暴発してん」
 暴発って一体どんなものを作ったんだ。思わず言葉に出そうになり、根性でそれを留める。
「はい、鈴です」
 鈴を紙袋に入れ手渡すと、秀元はお金を払い帰って行った。良い客だとは思うのだが、いかせん変人なため彼と会話した後は極度の疲労に襲われる。
「……よく、あんなのと話が続くな」
 関心半分、同情半分で店主に声を掛けられたのは言うまでもない。

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