小説 | ナノ

ただ一人に愛されて.2 [ 50/145 ]


「さっさと跡継ぎを作れ。そして死ね」
 ここ数日前から佐久穂が、そう云って来るようになり、ぬらりひょんは首を傾げた。
 死ねと云われることはあっても、子を成せとは言われたことはない。
 言いたいことを言うと、佐久穂はさっさとどこかへ行ってしまうのが恒例のパターンになっている。
 今日も縁側で囲碁をしているぬらりひょんを見つけると、一方的に先ほどの言葉を吐いて逃げていった。
「何じゃ?」
「キャハハハッ、鴉天狗の小言が移ったか?」
 ゲラゲラと声を上げて笑う狒々を王手で黙らせ首を傾げていると、一部始終見ていた雪麗がやっぱりと溜息を吐いていた。
「雪麗、何か知っとんのか?」
「ええ、まあ……あんまり総大将に死ね死ね言うもんだから跡継ぎ出来るまでは死なれちゃ困るって言ったらこの状態よ」
 それでも変わらず最後は死ねなのよね、と苦笑い。雪麗の言葉にまたしても大爆笑する狒々を今度は拳で黙らせた。
「痛いぜ総大将。つーか、いっそうのこと佐久穂を孕ませて子作りすりゃー良いんじゃね? そんで丸く収まんだろう」
 ブチブチと文句を言いながらも、ぬらりひょんにとって都合の良い提案をした狒々に彼は目を輝かせ嬉々としている。
 そんなぬらりひょんを見ていた雪麗は、哀れみの眼差しを向けてたのだった。
 そうと決まれば早速佐久穂を捕まえなくては。ぬらりひょんは、碁盤を狒々に押し付け去って行った佐久穂の後を追いかける。
 庭をぐるりと見渡せばやはりと云うべきか枝垂桜の枝の上に座っていた。
「佐久穂」
「貴様か、死ね」
「おいおい、ワシの顔見てそれしか言えんのか」
「他に云うべき言葉がない」
 相変わらずツンデレな佐久穂にぬらりひょんは挫けそうになるも、気持ちを奮い立たせる。
「まあ、そう言うな。おめぇ、ワシに子供が出来て欲しいんだろう」
 そこまで言うと、佐久穂の表情がパッと明るくなった。
「子供を作って死ぬんでくれるのか?」
「おうよ。ただし、佐久穂との子だぜ。それ以外は、お断りだ」
 ぬらりひょんの言葉を理解した瞬間、佐久穂の顔が物凄く嫌そうに歪んでいる。
「何で貴様と子作りしなければならん。その辺の女を孕ませれば済むことだろう」
 心底嫌そうに吐き捨てるゆすらに、ぬらりひょんは飄々とした顔で尚を言い募る。
「言いだしっぺはお前だぜ。それとも逃げんのかい? 嫌なら良いさ、跡継ぎが生まれることもないし、死ぬこともねぇしなぁ」
「誰が逃げるって言った! 良いだろう。跡継ぎを生んだら死んでもらうからな」
「おう、良いぜ。(寿命がきたらな)」
 まんまとぬらりひょんの策略に引っかかった佐久穂は、早速部屋に連れ込まれ襲われることとなった。

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