小説 | ナノ

奥方(仮)日記 初日 [ 75/218 ]


弘長XX年8月1日 鴉天狗



 総大将が魑魅魍魎の主となり、二度目の夏を迎えることとなった。
 未来の奥方様である藍様を遠く離れた京から連れて来たにも関わらず、一向に進展しないのは単に総大将の甲斐性が無いからだと思うのは私だけではないはず。
 あの二人、揃えば親子に見えると専らの噂で(ほぼ事実だが)浮名を流した嘗ての色男っぷりは成りを顰め、百年の恋も冷めるほどのダメっぷりを発揮する総大将に殺到した求婚が今やぱったりと無くなった。
 逆に藍様に対する求婚や恋文が、増えている現実を総大将が知ったら一体どうなるのやら……。
 求婚や恋文の大半が女妖怪から来ているのは、男よりも漢前過ぎる藍様に問題があるからだ。
 理想は結婚、現実は親子な二人を進展させるいい方法はないだろうか。


 ツラツラと当人が見れば激怒しそうな内容を書き綴っていた鴉天狗は、背後に雪羅が立っていることに気付かなかった。
「何それ、日記?」
「ウワァッァアッ! な、何じゃ……雪女か。驚かすな」
 冷や汗を掻いた鴉天狗は、胸を撫で下ろし死ぬかと思ったと愚痴を零すと彼女はシレッとした顔で笑う。
「勝手に驚いたのはアンタでしょう。で、何してんのよ。何々……へぇ、面白いこと書いてるじゃない」
 ニンマリと笑みを浮かべて日記を捲る雪羅に、鴉天狗は背筋がゾッと粟立った。
「……」
「折角だから妾も書いてあげる」
 雪羅は、鴉天狗の制止も聞かずウフフフと嫌な笑みを浮かべながら日記を持ち去った。
 後に、奴良組の中でいつの間にか交換日記となり現代に至るまで持ち回りで書き綴られることとなる。

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