小説 | ナノ

act17 [ 65/218 ]


 牛鬼に「藍殿の隠している秘密を本当に知りたいのなら、彼女をもう一度屋敷へ連れてきて下さい。私は、珱姫を迎えに行きます」と神妙な面持ちで言った。
 ぬらりひょんは多少ひっかかりを覚えたものの、それ以上牛鬼が口を開く気がないのを見て取り、藍を迎えに行くことを決めた。
 久しぶりに訪れた薬師寺では、相変わらず彼女は忙しそうに患者の手当てをしていた。
「よぉ、相変わらず忙しそうじゃな」
 ひと段落した彼女に声を掛けると、物凄く驚いた顔でぬらりひょんを見ている。
「何しにきたの?」
「つれないのぉ。久々に会ったんじゃから、もっと歓迎してくれてもよかろう」
 藍に触れようとしたら、パシッと手を叩かれた。
「触らないで下さい。私は、まだ仕事があります。貴方の相手をしている暇はないの。帰りなさい」
 ツンッとそっぽ向く藍に、ぬらりひょんは一瞬ポカンとするが直ぐ様ニヤリと笑みを浮かべる。
 彼女の細腰を掻き抱き、首筋に顔を埋めながら藍をからかう。
「何じゃ、寂しかったのか?」
 ピクンッと藍の身体が跳ねる。本当に可愛い女だ。
「寂しさを感じる間もないくらい忙しいもの。貴方のことなんて忘れていたわ」
「意地っ張りじゃのぉ。まあ、そんなところも可愛いんじゃが。今日は、お前と話すために来たわけじゃねぇ。ちょっと付き合え」
 ヒョイと彼女の身体を抱き上げると、藍はギョッとした顔で暴れ出した。
「ぬらりひょん! 下ろしなさい」
「耳元で騒ぐな。この間のように屋根に上るぞ」
 ジタバタと暴れる藍に、屋根の上に登るぞと脅しを掛けるとギッと睨み悔しそうに口を閉じる。
「クッ……卑怯者!」
「妖怪にとっちゃー褒め言葉じゃな」
「褒めてないわ」
 ケタケタと笑うぬらりひょんに藍は不貞腐れた顔で突っ込みを入れてくるが効果はない。
「どこ行くのよ」
「島原じゃ。そうそう、牛鬼に春が来たぞ」
 興味がそそるようなネタを振ると、藍はものの見事に食いついてきた。
「えっ!? それって恋人が出来たという事でしょうか?」
「まだそこまで行ってねーが、なかなか良い感じではあるな」
「牛鬼殿の片思いですか?」
「いんや、相手が猛烈に迫っている」
「妖怪の世界では、女性が迫るのもありなんですね」
 珱姫に迫られる牛鬼を思い出しクツリと笑みを浮かべていると、藍は呆気に取られている。
「相手は、人間の姫だぞ」
「ええっ!! ……それは、何というか規格外なお姫様ですね」
 驚愕する藍の様子に、ぬらりひょんは確かにと頷いた。牛鬼をネタにした話で比較的暴れられることなく島原に連れて行くことができた。
 島原の屋敷に着くと、中では宴会で盛り上がっているのか賑やかだ。
「今日は、賑やかね」
「ああ、藍以外にも一人客人が来てんだよ。年も近いし話は合うんじゃねーか?」
「そうだと良いですね」
 その時の彼女は、まだ比較的楽しそうにしていたと思う。牛鬼の客、珱姫と引き合わせる前までは。


 宴会場になっている大広間の襖を開けると、一斉にぬらりひょん達の方へと視線が向いた。
「おう、戻ったぜ」
「お帰りなさいませ、総大将。根治姫もご一緒でしたか」
 礼儀正しく挨拶する烏天狗に、藍は今晩はと愛想良く返事を返している。自分以外には比較的友好的な態度を取る彼女にムッとするが、怒ったところで相手にそれが通じないのはもう分かりきったこと。
 上座に辿り着く前に、彼女と親しい妖怪がワラワラと集まり声を掛けていく。
「藍じゃねーか。丁度いいところに来た。何か作ってくれ」
「私、一応客人なんですが」
「お前が客? ギャハハハッ、初っ端から説教かました女が客なもんか」
「相変わらず失礼な方ですね。ハァ……後で、何か作ります」
 狒々の傍若無人ぶりに怒ることもせず、藍は仕方が無いとばかりに肩を竦め許容するのだから面白くない。
「久しぶりじゃない藍。相変わらず、洒落っ気のない格好ね。最近、全然来ないから暇だったのよ。私が、綺麗にしてあげるわよ」
 フフッと怪しげな笑みを浮かべてにじり寄る雪麗に、
「え、遠慮しておきます」
少々引きつった顔で断りを入れる藍にぬらりひょんはハァと溜息を吐く。人間と関わろうとしなかった下僕達だが、藍と触れ合うようになりその態度は軟化したと思う。
 良い傾向なのだろうが、自分の女にちょっかいを掛けるのは止めて欲しい。藍も藍で、気にも止めないから余計に苛々する。
「藍、来い」
 彼女の腕を掴み座敷の上座へと連れて行こうとしたら、先に来ていた客に止められた。
「姉様?」
「えっ?」
 珱姫だけでなく、呼び止められた彼女も驚いた顔をしている。姉と呼ばれた藍を取り囲むように、驚愕の声が上がり島原の屋敷を揺るがした。

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