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変態に恋されました.3 [ 46/145 ]


 ダンッと床に押し倒された私は、体重を掛けられぬらりひょんから逃げることは叶わなかった。
 怒りに彩られた金色の瞳に射抜かれ息を呑む。
 シュルリと帯を抜き取られ、着物を剥かれる。露になった胸を手で隠そうとするも、ぬらりひょんの手によって頭上で縫いとめられる。
「やっ…離して!」
 空いたもう片方の手で身体の輪郭を撫でる。それは明確な意図を持ち、私を犯そうとしているのだと思うと怖かった。
 チュッ、チュッと軽く吸う音と肌を這い回る彼の手の感触に身体は次第にならされていく。腰を撫でていた手が尻のまろみを確かめるように揉まれた。
「んぁ、…ヤッ…んふっ…んんぅ…」
 性急さはあるものの優しくも卑猥な手つきに、私は羞恥心で頬を赤く染め上げた。
「無理矢理犯されるってのに感じてるのかい」
 意地の悪いことを言う。どんなに自分を偽っても、触れられる手は怖いけどそれ以上に気持ち良いのだ。
 いつの間にか心の隙間に入り込んでいたことに今更気づき、私はハハハッと何だかおかしくなり笑う。
「何がおかしい」
 ぬらりひょんの目が剣呑になる。真冬の澄んだ空に浮かぶ月のような瞳を捉えた。
「あんたの滅茶苦茶な行動に自分の本心を今更気づいたわ、ぬらりひょん」
 名前を呼んだことなど一度もなかっただけに、彼の驚きようは大きい。
「私の身体を無理矢理い奪うような関係を持ったら、後悔するのはぬらりひょん…あなたよ」
「後悔? ワシから逃れる方便か。ワシは、後悔してもあんたを手に入れる」
 一度拒絶したせいか、ぬらりひょんは頑なだ。
「無理矢理身体を奪った後、私が愛を呟いてもあなたは信じない。自分の犯した罪の意識をするあまりね。違う?」
「……」
「どうしようもない妖だこと。仕方ないじゃない……絆されたんだもの」
 苦笑いを浮かべるた私に、彼は唖然としている。まあ、好意を示したことなど一度もないのだからしょうがない。
「手を押さえつけられてると抱きしめられないわ」
「あ、ああ…わりぃ」
 バツの悪い顔を浮かべた彼は、頭上で一纏めにしていた手を離した。自由になったのを確認すると私は彼の胸を押し上から退かせる。
 向き合う形で座り、ニッコリと笑った後で彼の頬を思いっきり引っ叩いた。
「いっっ……何するんじゃ!!」
「それは、こっちの台詞よ。いきなり押し倒して、怒りに任せて襲うなんて男の風上にもおけないわ」
 ズバッと痛いところを突っ込まれたぬらりひょんは、グッと言葉に詰まっている。
「私も腹を括りましょう。貴方が、私の望むものを用意できるなら貴方の女になります」
「望むものとは何じゃ?」
「羽衣狐の首」
 絶句とはこのことを言うのかと、私はぬらりひょんを見ながら思う。
 いつもは鋭く尖った目が、丸くなっている。
「羽衣狐の首とは大きく出たな」
「私、天下を取れぬ男の元に嫁ぐ気はないの」
 ニッコリと笑みを浮かべて言うと、ぬらりひょんは肩を震わせたかと思うと爆笑した。
「ははははははっ、変わった女じゃとは思っておったが……そうか羽衣狐の首か。いずれは魑魅魍魎の主になるつもりじゃったからのぉ、時期が少しばかり早まったが一の姫よ。その願いワシが叶えてやる」
「佐久穂」
「は?」
「佐久穂、私の真名よ。家族以外でこの名を呼ぶことが出来るのはぬらりひょん唯一人。名を縛る権利を与えたのだから、精々行き遅れになる前に倒してね」
 ニッコリと笑みを浮かべて釘を刺すと、彼は勿論だと頼もしい言葉をくれた。
 ぬらりひょんの機嫌も直り話は纏まったことだし彼を追い出しにかかろうとしたが失敗した。まあ、それもそのはず男の前で着物を羽織る状態で半裸状態なのだ。
 盛りの付いたぬらりひょんが途中で止めるなんてことするわけもなく、私の制止も空しく押し倒された。

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