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変態に恋されました.2 [ 45/145 ]

The metamorphosis that I please do not be close together, and move.

 陰陽師の総本山なのに、妖が容易く出入りできるってどうなの? そう思っても仕方が無いと思うのは、目の前の忌々しい妖怪が我が物顔で居座っているからだ。
「……また、来たの」
「おぬしの名前を教えてくれるまで通うぞ」
 名前を教えるということは、相手に命の端を掴まれるということである。
「死ね」
「嫌よ嫌よも好きのうちってな。照れるな照れるな」
 どこまでも自分に都合の良い脳内回路を持つぬらりひょんの相手をしているとしんどくなってくる。
 ハァと溜息を吐くと、彼は私を腰を抱き密着してくる。背中は、彼の厚い胸板があり腕がお腹に回ってギュッと抱きしめられる。
 最近このポーズがお馴染みになってしまい暴れて攻撃たところで放すどころか、ギューギューッと締め付けてくるのでもう諦めている。
「私に構う暇があるなら京一の美女に会いに行きなさいよ」
「ワシは、アンタに惚れとるんじゃ。他の女にゃ興味ねぇ」
 一体どうしてこうなってしまったのか。話が大幅に変わってきている。珱姫と出会わなければ、彼が魑魅魍魎の主になるのは後になるだろう。
 未来が変わるということは、私の子孫も消えてしまうということ。それは回避したい。
「どうして私なのです? 意味が分かりません」
「中身と見た目の差異が激しい女は、どこを探してもおらん。その美貌も声も体躯も全てに魅了されておる。ワシの女になれ、一の姫」
 そう言いながら人の帯を解こうとするのは止めてくれ。
「ちょっと、止めなさいよ」
 ベシッと手を叩くと、イテッと痛がる振りをするぬらりひょんに呆れた。
「良いじゃねぇか」
「嫌よ。何であんたの女にならなきゃなんないの。それ以上するなら祓うわよ」
「おお、怖い」
 パッと手を放したぬらりひょんに、私はこういう軽薄な態度を取るから本気に思えないのだ。
「今日は、これくらいで我慢してやる」
 首筋に顔を埋めたかと思うと所有物だと言わんばかりにチューッと肌を吸い上げ赤い華を散らした。
「ちょっ…」
 怒鳴りつけてやろうかと思ったら、唇を奪われる。本当に手が早い男だ。
「じゃあな」
 ぬらりひょんは、それだけ言うと飄々とした顔で闇の中へと消えてしまった。


 ぬらりひょんに気を許してしまったのが悪いのか、私の部屋から妖の気配がすると是光が言い出したものだから部屋を変えるという暴挙に出られた。
 秀元が、見透かしたように『無駄やと思うで〜。火に油注ぐようなもんやん。止めとき』と提言していたが、頭でっかちな是光がそれを聞き入れることはなかった。
「……平和過ぎるわ」
 毎日毎日ぬらりひょんが押し掛けて来た日々は、本当に退屈しなかった。
 彼の顔を見なくなってから溜息の数が増えたと指摘され、私は自覚無かっただけにショックだった。
 暫くボンヤリと外を眺めていたが、月を見るのにも飽きた私はそろそろ就寝しようかと褥に入ろうとした時だった。
 ガシッと腕を掴まれ後ろに引かれる。
「ヒャアッ!?」
 転倒すると思ったら、ポスンッと誰かの胸に収まった。気配や匂いからして彼だというのは分かる。
「どういう事じゃ? 急に隠れるようにワシから逃げて……逃げおおせられるとでも思ったか」
 声音だけでも分かる。静かに怒る彼の声に、私はブルリと身体を振るわせた。
 ぬらりひょんが、ここに来たとなれば是光が又別の策を講じるだろう。最悪、ぬらりひょんを討とうとするかもしれない。
 私は、平静を装い怒って帰るように仕向けた。それが私の運命を変えることになろうとは知る由もなく。
「私が、どこで何をしようとあなたに関係ない。帰れ」
 私の言葉は彼の怒りに油ではなく灯油を投下したようなもので手が付けられないくらい激昂された。
「関係ないじゃと……。なら、無理矢理既成事実を作って関係を持てば二度とそんなことは言えんじゃろう」
 狂気とも言える彼の言動に、私は目を大きく見開き固まってしまった。

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