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愛情確認C [ 43/218 ]


 濃厚とも言える一週間を薬鴆堂で過ごしたぬらりひょんは、グッタリとしている藍を抱きかかえて奴良邸へと戻って来た。
 いつもなら誰かしらが出迎えてくれるのだが、今日に限って誰も居ない。
 嫌な予感を覚えるものの、一歩家の中に足を踏み入れるとあっちこっちに妖怪が腹を押えて唸っていた。
 その異様な光景に、ぬらりひょんは呆気に取られる。
「……お前ら何やっとるんじゃ」
「下痢か?」
 ぬらりひょんと藍の帰還に喜んだ妖怪達だったが、それも束の間の事で皆競うように厠へと掛けていく。
 その光景はまさに地獄絵図。我先にと走る形相は皆必死だ。
 藍の部屋へと向かう途中に沢山の妖怪と会ったが、半数は腹を抱えて唸っている。
 彼女を褥に寝かせると、ぬらりひょんは訳が分からないと首を捻る。
「一体どうなっとるんじゃ」
「あの様子からして腹下してんじゃねぇのか」
 集団食中毒という言葉が藍の脳裏に浮かび上がる。まさか、そんなはずは……。
 そう思いたいが、現状と照らし合わせてみても彼らの症状はまさに集団食中毒そのものである。
「……ぬらりひょん、帰って早々で悪いが鴆を連れてきてくれ」
「ああ、分かった」
 ぬらりひょんにお使いを頼んだ藍は、鈍痛を抱える腰を庇いながらヨロヨロと立ち上がる。
 現状把握だけでもしておかないと、対処のしようがない。
「あれだけ問題は起すなって言っておいたのに……」
 纏め役になっているであろう珱姫と雪麗、そして烏天狗を探しに藍は部屋を出た。
 彼らの部屋を訪ねるも、そこに彼らの姿はなかった。一体どこにいるのか。部屋数だけは無駄に多い奴良邸を全部見て回るのは骨が折れる。
「まさか、台所……とか?」
 珱姫に料理をさせた事はないし、雪麗が料理をしているところなど見たことがない。烏天狗は論外だ。
 念のため見ておくかと足を運んだ藍は、飛び込んできた光景に思わず「三人寄れば文殊の知恵」と慣用句を呟いた。
 藍の声に気付いた珱姫が、パァァアと顔を明るくし抱きついてきた。藍は、倒れそうになるのを何とか堪える。
「藍殿、お帰りなさい」
「ただいま。ところで、三人揃って何やってんだ?」
「お食事の支度をしてました」
 偉いでしょうと胸を張る珱姫に、原因がハッキリとした藍は頭を抱えたくなった。
「何で毒キノコが食卓に上がるんだ?」
「皆さん、便秘気味らしくってツキヨタケで便通を良くして差し上げようを思ったんです」
 ニッコリと可愛らしく微笑む珱姫だが、言っている事はえげつない。
「……烏天狗、何で止めなかった」
 この惨状をどうしてくれると睨みつけると、清々しいまでにキッパリと言い切られた。
「止めれるわけがない」
 暴走した珱姫を止めれないなら、自分に害が及ばない方法且つ最小限に留めるまでと彼なりに結論を出したらしい。
「まあ、死なない程度の量だから問題ないでしょう」
「いや、問題だから。半数が食中毒になってる今、奇襲かけられたら本気でヤバイだろう普通」
 雪麗の言葉に藍が間髪入れずに突っ込むと彼女は、
「藍を総大将の奥方と認めないんだから仕方ないでしょう」
と宣った。ストッパー的な役割をしてくれると思っていた彼女までが、珱姫の暴走に手を貸すとは予想外だ。
「お前は、ぬらりひょんのこと好きだろうが」
「好きよ。でも、私が彼の隣に立つことはないわ。その役は、私が唯一認めた女―藍―しか許さない。どいつもこいつも、藍を押し退けて自分の娘を遣そうとするんだもの。うっとおしくて氷付けにしてやろうかと思ったわぁ」
 いつまで経っても認めない下僕たちに痺れを切らしていた雪麗と、珱姫の悪巧みが利害一致した結果が、この食中毒騒動である。
 この事件を境に、脅しを受けた妖怪達が一匹…また一匹とぬらりひょんとの結婚に賛成する切欠になるとはつゆ知らず。
 プルプルと肩を震わせる藍から雷が落ちたのは言うまでもなく、ぬらりひょんに連れて来られた鴆からも盛大な雷が落ちる事となる。

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