小説 | ナノ

2-11 [ 32/218 ]


 朝起きても厭味ったらしくネチネチとお小言を言う秀元に、藍はげんなりとした顔でそれを聞き流している。
 ぬらりひょんは、そんな彼らを見て苦い笑いを浮かべた。
 秀元も可愛さゆえに小言を云うのだが、内容が聊かえげつなく執拗だ。
 もう少しまともな言い方をすれば藍も受け入れるだろうに、それが出来ない天才陰陽師はやはりどこか常識というものが欠落している節がある。
 ぬらりひょんに云われたらお終いだと激怒されそうなことをつらつらと思いながら、二人のやり取りを今日も傍観することにした。
「君なぁ、そんなんで嫁が務まる思てんの? 甘い! 甘過ぎやで!! 子作りも立派な使命! 何やったっけ……そうそう、小判舟で何でせーへんの。二人っきりになる時間なんてあの家におったら無いも同然やで。それとも沢山おるところでするのが好きなんか?」
「なんでそうなる!! つーか、人の性生活に口出すなっつーの! お前らみたいな変態と一緒にすんな馬鹿野郎」
 本気臭が混じる秀元の言葉に、藍は顔を真っ赤にして怒号する。恥ずかしがり屋の彼女だが、一度行為に持ち込めば以外と何でもしてくれるので人のこと言えないと思う。
「変態変態って、それに付き合う藍も同じ穴の狢じゃぞ」
「うっさい! 黙れ! 変態1号!!」
 変態1号と嫌なあだ名を頂戴したぬらりひょんは、飄々とした顔でこう切り替えした。
「ワシが変態1号なら、藍は変態2号じゃな」
「キーッ!! お前が喋り出すと話の腰が折れるっつーの」
「藍ちゃんが、話の腰を折ってるやん。人のせいにしたらあかんで」
などと、秀元からすかさず突込みが入る。イライラが頂点に達した藍は、ガバッと立ち上がったかと思うとギラッと秀元とぬらりひょんを睨みつけて言った。
「黙れ変態共めっ! 秀元、それ以上俺たちの性生活に口出ししてみろ。不能にしてやる。ぬらりひょん、テメェは後でお仕置き決定だ」
 もう口出しした後である秀元は、冷や汗をかく。彼女のいう不能が、男としての不能なのか。人間としての不能なのか、果たしてどっちだろう。
 からかい過ぎたことを後悔しても遅い。ぬらりひょんには悪いが、被害被る前に戦線離脱させてもらおうと秀元は彼女の気をそらすべく話題を変えた。
「からかいが過ぎたわ、堪忍な。遅くなってしもうたけど、結婚祝いに湯の花温泉へ招待したるさかい許してや」
「……何企んでんだ」
 藍の鋭い突っ込みに、秀元は長年培ったポーカーフェイスで彼女に悟られぬよう話を続ける。
「企むなんて人聞きの悪いこと言わんといてや。折角、京に戻ってきたんやしブラブラするつもりやったんやろう? 新婚旅行と思って楽しんできたらええやん。お土産に、松尾大社に寄ってお神酒買ってきてとは言わんけどー」
「それが目的じゃねぇか」
「うん、まあそうとも言うけどなー。宿代や飲み食い代は僕んところに請求してくれてええんやで。嫁いでから豪華な料理なんて久しく食べてへんやろ? タダで飲み食い出来て温泉に入れる機会を不意にしても僕は構へんけどな。お金浮くし」
 ニヤァと人を食った笑みを浮かべる秀元に、藍は怒りと温泉を天秤に掛け葛藤している。
 暫しの無言の後、彼女はキッと秀元を睨みつけて言った。
「行くぞぬらりひょん! こいつの金で思いっきり飲み食いしてやろうぜ。後で請求額を見て泣きやがれ」
「あ、ああ……」
 鼻息を荒くし捲し立てる藍に、ぬらりひょんは彼女の勢いに飲まれるようにコクコクと頭を縦に振った。
 一方、散財宣言を受けた秀元は焦る様子も無く快く二人を送り出す。それもそのはず、秀元は藍が極度の貧乏性なのを知っているからこそ散財したところで大した金額にはならないのが分かっているからだ。
「ぬらちゃん、お膳立てしたんやから頑張って子作りに励みーや。これで出来んかったら新しい魑魅魍魎の主は不能やったって噂流したる」
 クツクツと一人怪しい笑みを浮かべる秀元を止めるものなど誰一人居なかった。


 小判舟に乗ること半刻ほど、湯の花温泉街へと降り立った彼らは保津川亭を訪れていた。
「ここで一番高い部屋に通してくれ」
 藍は、宿に着くなり番頭を捕まえそう言い放った。番頭は、ぬらりひょんと藍の格好を見て眉を寄せた後に首を横に振った。
「生憎、そのお部屋空いておりまへんのや。相部屋でよろしおすか?」
 一番安い部屋を提案してきた番頭に、ヒクッと藍の顔が引きつる。
「そうかい……結構だよ!」
 ぬらりひょんの腕を掴み藍は、足早に宿を出た。そして、小判舟に乗り込み堀川通りにある西陣へ行くように指示を出した。
「フフフッ……あの糞番頭め。目に物を見せてやるわ。ハーハッハッハッ」
 小判舟の上から高笑いする藍に、ぬらりひょんは彼女が何をしようとしているのか想像がつき脱力する。
「それで西陣に行くのか」
「おうよ。もちろん、秀元のツケで散財してやる。クケケケッ……あいつ、俺が貧乏症だから散財しねーと踏んでるに違いない。裏を掻いてあいつの給料が空になるまで使い込んでやる」
 あの師にしてこの弟子あり。こうも正確が似てくるものなのか。つくづくイイ性格していると思う。
「ま、あいつの金だしな」
 藍の暴走を止める気などさらさらないぬらりひょんは、気が済むならそれで良いかと傍観している。
 西陣で高級着物一式と化粧道具を揃えた藍は、着飾った姿で再び保津川亭を訪れ番頭に嫌味を言いまくったのだった。

*prevhome#next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -