小説 | ナノ

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 奴良組名物戦略空中妖塞こと宝船を守る小判舟を拝借し奴良邸を出発した藍は、のんびりと外の景色を眺めていた。
 雲の上から眺める景色は絶景で、かつて生きた世界では味わえない光景だ。
「これで秀元のところに顔を出さなきゃなんねーってのが残念だ」
 ハァと溜息を吐く藍に、ぬらりひょんは背中に回りベッタリとくっ付いてくる。
 腰に回された腕をうざったいと思いながらも好きにさせる。
 奴の過度なスキンシップに慣れたのもあるが、色々我慢させていたことも多いので少々甘くなっても仕方が無い。
 漸く結婚という形で藍を縛れる喜びを隠しもせず、ニタニタする顔は藍以外が見たら百年の恋も冷めるというものだ。
「……おい、どこ触ってんだ。この野郎」
 帯に手を掛けるぬらりひょんに、藍はベシッとその手を叩き落す。
「良いじゃろう夫婦なんじゃし。二人っきりになれたんじゃ。ヤることはヤらんと」
 チューッとうなじを吸い上げる彼に、藍は冗談じゃないと暴れる。
「ふざけんな!! 最低限の水と食料しかない上、他人がいる前でヤれるかーっ!!!」
「誰もおらん」
「居るわボケェェエ! 小判舟の中でヤったら筒抜けになんだろうが」
 単なる移動手段の船じゃない。小判舟も立派な妖怪なのだ。そいつの腹の中で、蜜事を楽しむ勇気など持ち合わせてない。
「んなもん、家に居ても同じじゃ。共同生活しとったら、性生活なんざぁ筒抜けじゃからな」
「……」
 ぬらりひょんの衝撃的な事実に、藍は口をパクパク開き顔を真っ赤に染めたかと思うと真っ青になる。
 一体どうしてこの娘は、ぬらりひょんの心を捉えてはなさないのか。本当に飽きない女だとぬらりひょんは心の中でほそく微笑んだ。
「諦めは肝心、開き直るのが一番じゃ」
 ぬらりひょんは、そう言うと唖然としている藍の唇に噛み付いた。
 小さな唇を覆うようにねっとりと合わせる。都合よく開いた唇に舌を差し入れ絡めとる。
「ふっ…ん…ぅ、ふぅ…んん…」
 不自然な体勢なせいか、濃厚な接吻に藍は早々に音を上げる。
 飲み切れなかった唾液が、唇の端を伝い喉を伝い着物を汚す。
 息苦しさを伝えるかのように藍は、バンバンとぬらりひょんの腕を叩いていたが酸欠で力が入らなくなりクタリとなる。
「……っと、大丈夫かい?」
 ぬらりひょんは、力が抜けた藍を支え横たえようとするが彼女から思わぬ反撃を食らう。
「……んっの馬鹿!! 大丈夫なわけあるか、この野郎っ! 死ぬかと思ったわ」
 バシーンッと痛そうな音を立てぬらりひょんの顔を引っ叩いた藍は、ゼーハーゼーハーッと深呼吸を繰り返しギッとぬらりひょんを睨みつける。
「痛ぇじゃねーか!」
「こっちは酸欠でお花畑が見えたっつーの。たく、どこでも発情すんじゃねーよ」
 冷たい目で睨み付けてくる彼女に、ぬらりひょんは目頭を熱くした。
「愛する夫に対して酷過ぎやしねーか、この仕打ち……」
「愛する夫って、自分で言ってて空しくねーか?」
 ぬらりひょんと藍の気持ちの大きさは、こんなところにも現れている。誰かの言葉で、惚れた方が負けというものがあったが、ぬらりひょんは完全に藍に敗北した。
 シクシクといじけ始めるぬらりひょんの姿を見て、藍は流石にやり過ぎたかと反省する。
「あー……そんなイジケんなよ」
「藍は、ワシが思っているより好きじゃねーんだろう」
 大当たりだ。なんて言おうものなら、余計にヘソを曲げてしまう。
 仕方が無いなぁと思いつつも、ぬらりひょんの前に座りチューッと唇に吸い付いた。
「好きじゃなきゃこんな事しねーって何度言わせりゃ分かんだ。このアンポンタンめ」
「藍ーっ」
 ガバッと抱きついてきたぬらりひょんの背中を軽く叩きながら、仕方が無いと妥協案を提案した。
「京について秀元んところの用事が済んだ後、ブラッと京を回ろうぜ。そん時なら変態プレイ以外なら付き合ってやるよ」
「変態ぷれいなんぞせん。普通に愛し合いたいだけじゃ」
「いやいや、ここでヤろうとしてる辺り十分変態だから。俺、露出狂じゃねーもん」
 誰かに見られてするなんて真っ平ゴメンだ。変態プレイの意味をきちんと把握してないぬらりひょんにすかさず突っ込みを入れるが、彼は全然気にした様子はない。
「京について、さっさと秀元のところに顔を出すぞ!」
 今泣いた烏がもう笑っている。相変わらず変わり身の早い男である。
「秀元んところで精神的ダメージ食らわないと良いけどな」
「そうじゃな。して、藍よ。だめぇじって何じゃ?」
「……意味が分からんなら肯定すんなよ」
 上手く喋れないせいか、ちょっとたどたどしくて可愛い。
 意味が分からなくて当たり前なのだ。無理に外来語を取り入れ喋ろうとしなくてもいいのにと藍は苦笑する。
「チューはしてやるから、今はそれで我慢な?」
 ぬらりひょんの唇をカプッと食みながら、藍はにこやかに笑った。

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