小説 | ナノ

act11 [ 12/218 ]


 人払いしてやるから毎日通えと言われ、ぬらりひょんは『藍に会うため』と都合よく脳内変換し公家屋敷を訪れたのだが、居るのは珱姫のみで、肝心の藍はというと「ちょっくら妖怪退治してくらぁ。後は、よろしく。くれぐれも嫁入り前の女を犯すようなことはすんなよー」と言い残し意気揚々と祢々切丸片手に妖怪退治へと出かけていった。
 珱姫のお守りを任されること、数日が過ぎるとぬらりひょんも我慢の限界が来ていた。
「藍に会いに来とるのに、何でお主しかおらんのじゃ!」
「それは、こちらの台詞です! 妖様のせいで藍殿との時間が思いっきり削られたんですよっ。どうしてくれるんですか!!」
「ワシだって、藍とイチャイチャしたいわ!」
「藍殿の恋人でもないくせに、イチャイチャなんて許しません!」
「お主に許されるものはない。藍は、俺の女じゃ!!」
「いいえ、藍殿は私のです!」
 藍の所有権を巡って、ぬらりひょんと珱姫の間で不毛な会話を繰り広げているなどと当の本人は知るよしもなかった。


 徳川が大阪城を攻め入るのも近くなり、生き胆を狙う妖が挙って増えた。
 先日の一件もあり、祢々切丸以外の退魔刀の製作を秀元に頼んでおいている。一本だけではいざという時に珱姫を守りきれないと思ったからだ。
 珱姫を狙う妖が増える一方、体調不良が藍を襲った。
 風邪に似た症状で、常に微熱が続き倦怠感がある。貧血も起しやすく、濃い味付けの食べ物を受け付けない状態で床に伏せる事が多くなり、その状態での護衛は難しいと判断した是光が花開院邸に戻ることを決めた。
「……任務と途中で放棄するのは嫌です」
「その状態のお前は足手まといだ。帰って静養しろ。具合が良くなれば直ぐにでも働いてもらう」
 是光の言っている事は正しく、下手をすれば自分だけでなく珱姫までも危険にさらしかねない。
「分かりました。俺が戻ってくるまでの間、何があっても珱姫を守って下さい」
 是光にこれでもかと念押しした後、藍は珱姫がいるであろう昼の御座(ひのおまし)へと足を運んだ。
 日中は、彼女の部屋に訪れる者(主に患者)が多くおいそれと近づく事が出来ない。
 何も言わずに出るよりは、一言挨拶して出た方が彼女にとっても、自分にとっても良いだろう。
「珱姫様、少しお話があります。お時間を頂いても宜しいですか?」
 藍は、人前では堅苦しい言葉遣いで珱姫に接する。彼女なりのケジメなのだろうが、珱姫は隔たりを感じてそれが嫌だった。
「分かりました。少し……待っていただけますか」
「畏まりました」
 珱姫は目の前にいる患者を治し一言二言声を掛けた後、藍を伴い自室へと戻った。
「それで、話とはなんですか?」
「ここのところ体調が芳しくない。是光殿より帰還命令を受けた。体調が戻り次第、直ぐに戻ってくる。それまでは、暫くお別れだ」
「体調が悪いなら何故仰って頂けなかったのですか? 私が今すぐに治します!!」
 藍の身体に触れようと手を伸ばす珱姫に、彼女は首をゆるく横に振った。
「その力は、珱姫に負担が掛かってる。力を使った後は、しんどいだろう。大丈夫、風邪を少し拗らせたもんだ。直ぐ治して戻ってくるから待ってろ」
 ポンポンッと小さな子供をあやすかの如く、藍は珱姫の頭を軽く叩いた。
「まあ、何かあってもぬらりひょんが守ってくれるだろうから心配すんな」
「妖様に守ってもらうくらいなら、自分の身くらい自分で守ります!」
 キッパリとぬらりひょんを拒絶した珱姫に、藍は一抹の不安を抱えた。
「珱姫は、ぬらりひょんのこと嫌いなのか?」
「……嫌いではありませんが、好きになれません」
 予想外の回答に、折角気を利かせて二人きりにしたのが帰って不味かったことに気付いた。
「因みに、珱姫の理想の人物像は?」
「優しくて温かくて強くて格好良いまさに藍殿のような人です」
「……ありがとう」
 ほんのりと頬を赤く染め告白する珱姫に、藍は一体どこで間違ったのだろと心の中で嘆いた。
「藍殿の理想の人ってどんな方ですか?」
「うーん……強いて言うなら牛鬼をもう少し落ち着いた感じにした人」
「牛鬼?」
「ああ、ぬらりひょんの下僕の一人で、滅茶苦茶強いんだぜ。血気盛んなところがあるが、そこさえ落ち着いていれば完璧だな。結婚相手は、ああいうのに限る」
 理想の夫像を語る藍には、珱姫がニコニコと微笑むその裏で牛鬼暗殺の計画を企てているとは知るよしも無く、屋敷を出るまでの間しきりに身体のことを気にしてくれる彼女の優しさに胸を打たれていた。

*prevhome#next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -