小説 | ナノ

act4 [ 5/218 ]


「うちの弟子に触らんといてくれん」
 単の襟を掴まれぬらりひょんから引き離された藍は、天の助けとばかりにギュッと秀元にしがみ付いた。
「藍、積極的やね。嬉しいんやけど、ちょお放してくれん」
「藍言うな! つーか、結界効いてないし。妖怪入ってきたら意味ないぞ」
 秀元の後ろに隠れ文句を言うと、細い目を一層細めて言った。
「彼の特性考えたら結界なんて無きに等しいやん。なあ、そうやろう……関東妖怪の奴良組総大将ぬらりひょん」
 初対面にも関わらず名前を言い当てた秀元は、腐っても花開院当主なのだ。
「お前誰だ?」
「あれ、藍ちゃんから聞いてへん? 花開院秀元、一応十三代目当主やで。そんでもって、彼女のお師匠さん」
 ペシペシと頭を叩く秀元の手を払いながら、やっぱり彼の背中からぬらりひょんを睨みつける。
「初耳だ。……藍、こいつが惚れた男か?」
「え? そうなん? 藍ちゃんったら、そんなそぶり見せへんからてっきり嫌われてる思てたのに」
 片や憤怒の様子で秀元を睨むぬらりひょんと、片やぬらりひょんの言葉にカラコロと笑う秀元。
 考えるだけでも鳥肌が立つようなことを言われ、藍の堪忍袋の緒がプッツンと音を立てて切れた。
「おぞましいこと言うな、ド阿呆がっ!! あんたも、違うと分かっててからかうなよ」
 秀元から離れ彼の腰を思いっきり蹴り付けようとしたが、気付いていたのかするりと避けられてしまった。
 転倒すると思ったら、ぬらりひょんの腕の中に転がり込み抱き留められる形になる。
「ありゃ、お暑いことで。弄るのはええけど、傷物にしたら滅っしたる。こう見えても、弟子思いなんやでボク」
 自分で言うなと思うのだが、どこか何か違うと心の中で叫んだ。
「人の生き胆狙ってるわけでもなさそうやし、まあ害はあらへんやろう。適当に帰りや」
「ちょい待て!! 俺を見捨てる気か?」
「だって、ボク関係ないもん。貞操は、うん……まあ頑張って守りやー」
 腕の中に閉じ込められている以上、身動きが取れない藍は喚くも、秀元はさらりと爆弾発言を残して無情にも去っていった。
 唖然とする藍に、ぬらりひょんは抵抗がなくなったのを良いことにヒョイと俵担ぎにして外に出た。
「下ろせ阿呆!! 今、単(下着)姿やぞ」
 薄い単一枚。何とも心許無いことか。どこかへ連れ去ろうとするぬらりひょんに、手足をバタつかせて抵抗するが意味はなかった。
「……朝には帰してやるから付き合え」
「下着姿でどこに付き合えっちゅーねん!」
 最もな藍の意見を黙殺し、ぬらりひょんは夜の闇をヒョイヒョイと駆けて行った。


 付き合えと言われて、はいそうですかと答える馬鹿はいないと思う。
 無理矢理連れて来られた先は、洛西―島原―にある屋敷だった。
「……よりによって花街かよ。俺に構う暇があるなら、そこらのネェちゃんでも買って楽しんで来い」
 寧ろ、その方が自分の貞操は守られるし、相手はプロだ。ぬらりひょんとて楽しめるだろうに。
「ほぉ、花街がどういう場所か知っとる素振りじゃのぉ」
「島原には、俺の実家が懇意にしてる客がいるんでね」
 独特の雰囲気のあるこの場所は、あまり好きになれない。単(下着)姿でいるということも原因の一つではあるのだが。
 ところかしこに妖気が感じられるのは、恐らくここを拠点にして活動しているのだろう。
「どうでも良いが、人をこんなところに連れてきて何がしたいんだ?」
 至極真面目な質問だったはずなのに、返って来た答えは耳を疑うようなものだった。
「惚れた男とワシとどっちが上手いか試したくなった」
「はぁ!? ふざけんなよ! てめーの下手な自尊心のために、俺を巻き込むんじゃねぇ」
 冗談じゃないと怒りを露にする藍をぬらりひょんは軽く受け流し、容易く彼女の身体を拘束した。
「拒否権などあると思うな。ワシは、ワシのしたいようにする……」
 ぬらりひょんの本気を感じ取った藍は、絶望で目の前が真っ暗に染まった。

*prevhome#next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -