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MAGI幾重詞*王子について語って下さいU [ 2/2 ]


「アブマドについてか。ふむ、アリババは何故そのようなことを聞いてくるのだ」
 朝食の席で唐突に尋ねられた質問に、ラシッドは首を傾げた。
「父上は、アブマド兄上を金貨一枚渡して放り出されたそうですね。護衛はカシム一人だと聞きました」
 恨みがましい目で見られて、漸く末息子が何を思っていたのか想像が出来た。
 随分と懐いたものである。彼がアリババを拾ってきたのもあるだろうが、溺愛振りはサブマドに負けず劣らず重たい愛を注がれているのは周知の事実だった。
「アレの商才は、バルバッドだけで終わらせるのは勿体ない。色々と経験させるべきだろう」
「そうですけど……父上は、心配にはならないんですか?」
「アリババ、兄上の棍術はバルカークと張れるくらいの腕です。それに魔法は、宮廷魔導士を凌ぐ逸材ですからね。まあ、専ら武力行使して敵を殲滅する姿が如実に浮かびますよ。心配するだけ無駄と云うものです」
 へにょりと眉尻を下げるアリババに対し、サブマドがズバズバと辛口コメントを返している。仲睦まじい兄弟にラッシドは髭を撫でながら小さく笑みを浮かべた。
「アリババも成人する前には、外の世界を知るために他国へ留学するのも良いだろう」
「留学ですか」
「そうだよ。サブマドは、エリオハプトへ1年ほど留学したのだったな」
「ええ、(鬱陶しい)兄上と離れてとても有意義な経験をしました。エリオハプトは、バルバッドと気候が似ているせいか食文化なども似ていたよ」
 とてもの部分がとても強調されているのは気のせいではないだろう。
 サブマドは、懐かしいとその時の状況をアリババに語っている。アリババも興味があるのか、目をキラキラさせながら聞いている。
 盛り上がる二人を見て、ラッシドは気づかれないよう小さな溜息を一つ吐いた。
 アブマドは、自ら王位継承権を放棄した。と云っても、知っているのはラッシドと感の良いサブマドくらいだろう。
 正式に放棄したわけではないが、彼に王位を継ぐ意思は皆無だ。王位を継ぐ気がない者を養うわけにもいかず、自力で食い扶持稼げと放り出したとは口が裂けても言えない。
 正直なところ、民の立つ場所まで降りて一緒に考え歩くアブマドに王としての器があると感じたのだが、他ならぬ彼が『自分は王の器ではなく、アリババこそ王に相応しい』と断言した。
 何故と聞けば、誰かの為を思い動ける人間は少ない。彼が動くと周りが幸せになるのだと言った。
 そして、サブマドも自分もサポートに徹する方が性に合っているのだとも言った。
 アブマドの趣味が金儲けと情報操作からして、王位につくと容易く動けなくなるのが嫌なのだろう。
 あの手この手で王位をアリババに押し付けようとしているのに対し、その弟は無邪気にアブマドを慕っている現状に不憫すぎて涙が出そうだ。
「己の価値を見出すためにも、外を見るのは必要なのだ」
「父上がなさったことが、大切なことだと分かりました」
 尊敬の眼差しにウッとくるものがあったが、何とか誤魔化すことに成功したのだった。

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