小説 | ナノ

330万打SS yuka様リクエスト [ 1/2 ]

王子について語って下さい



「は? 兄上をどう思っているか?」
 唐突に質問されたアリババは、いきなり何言ってんだこいつはと胡乱気にカシムを見た。
「全身で弟LOVEを語るあの人をお前はどう思ってるのかと」
「弟LOVEって……あれが普通だろう。カシムもマリアムにも甘いじゃん」
 そう回答すると、未知の生物を見るよな目でアリババを見つめるカシムがいた。
「な、何だよ」
「何かにつけて構ったり抱き上げたり風呂に入ったり人の布団に忍び込んでたりするあの人の言動行動は、どう考えても行き過ぎてておかしいだろう!」
 凄い剣幕でバシバシと床を叩きながら力説するカシムに、アリババは意味が分からないと首をかしげた。
「出会った時からそんな感じだっただろう」
 アリババが城に来るまでは、サブマドがあの重たい愛情を一心に受けていたらしい。
 五歳も離れたアリババを連れ帰り、彼だけに愛情が注がれると思いきや、平等且つ病的な愛情をカシムやマリアムまで全力で注ぐ人であると言うのがアリババの認識だった。
「母さんも、良い兄ちゃんが出来て良かったわねって言ってたじゃん。……兄上と何かあったのか?」
 何かされたのではなく、何かあったと考えている時点で毒されているのだが、アリババはそれに気付いていないでいた。
 逆に問い掛けられたカシムは、視線をウロウロさせていたかと思うと何を思い出したのか顔を真っ赤にして手で口元を覆い隠してしまった。
「ちょっ、マジ何があったんだよ!」
 アリババは、物凄く嫌な予感がした。ガシッとカシムの肩を掴みガックンガックンと揺さぶるも彼は一向に話そうとしない。
「カシ……」
 さっさと話せとばかりに怒鳴りつけようとしたら、ガチャリと部屋のドアが開いた。
「何やってんだ、お前ら?」
 ベッドの上でドッスンバッタンしているシーンをがっつりと見られた事に顔を赤らめるアリババだったが、それは今逆効果でしか作用しなかった。
 アブドマは、プルプルと肩を震わせたかと思うと絶叫した。
「いくら仲が良くても兄ちゃんまだ早いと思います!」
 ベリッと二人を引き離したかと思うとアリババに抱きついてオイオイと泣き出した。
「兄ちゃんを置いてお嫁に行っちゃ嫌だぁぁあ」
「ちょっ、兄上!? うわっ、酒くさっ」
 フワッと香る濃厚な酒の匂いに、彼がへべれけに酔っているのが嫌でも分かる。
 それであのぶっ飛んだ発言に繋がったのかと、アリババは脱力した。
「兄上……俺、男なんで嫁には行かないです」
 ポンポンと背中を叩きあやそうとすると、何をトチ狂ったのか今度はカシムの方を向いて泣き出した。
「カシムが嫁に行くの? 可愛くて気立てが良くてツンデレだけど結婚は早いよ。兄ちゃんは許しません」
 カシムに抱き付きオイオイと泣き出した。
「いかねーよっ! 大体嫁ってなんだよ。俺は、男だ!」
「兄ちゃんが、可愛いお嫁さん候補を選ぶから! 変な女には近付けさせない」
「食い違って話進んでねー!」
 埒が明かないとカシムが手加減なしで叩いたのが功を成したのか彼は寝落ちした。
 台風一過のように静かになったアリババの部屋で漏れた溜息が何だか大きく聞こえた。
「兄上が、ベロンベロンに酔っ払うところ始めてみた」
「この人、公務が絡むと酒の場では絶対酔わなからな。プライベートだと、いつもこうなる」
 そして、己が彼を回収するために毎度借り出されるのだ。同僚曰く、マリアムかカシムを付けておけば矛先が自分に向かないからだとか何とか。
 幼いマリアムにそんなことをさせるわけにもいかず、必然的に酒に酔った彼のお守はカシムがすることが定着しつつあった。
「兄上と飲んでるのか? 俺は、まだないのに」
「違う。これのお守をさせられているだけだ。一滴たりとも飲んでいない」
 飲もうとすれば、目の前で眠りこけている酔っ払いが目を吊り上げて説教するのだから冗談じゃない。
「兄上を部屋まで運ぶのは大変だし、このまま寝かせてあげよう」
「……頑張れ。俺は、部屋に戻る」
 雑魚寝はいつものことだと、彼を真ん中に寄せて寝る体制を取ったアリババにカシムは微妙な顔で声援を送った。
「何を?」
「何でもない。じゃあな、お休み」
 アリババの問いに答えることなく、カシムは手を振り部屋を後にした。
 翌日アリババの悲鳴が宮殿を揺るがすことになるのだが、その原因を作った張本人は何故悲鳴上がったのか理解できておらずキョトンとしていた。



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