小説 | ナノ

人魚姫IF*もしも宮子姫が生きてたらB [ 34/34 ]


 ぬらりひょんを追い出した後、無理が祟ってかそのまま夢の世界へ飛んだ私は、次に起きた時に雪麗にしこたま怒られた。
 ご飯が無駄になったとブチブチ文句を言われたのは言うまでもなく、私はひたすら彼女に頭を下げていた。
「それで、どうするの?」
「何が?」
 脈絡もなく話を振られ、匙を咥えながら首を傾げていると行儀が悪いと頭を叩かれた。
 怪我人に向かって何たる仕打ちと恨みがましく視線を送ると綺麗に無視されてしまった。
「今後の事よ」
 そう云われ、私は嗚呼と思い出したように手を叩いた。すっかり忘れていた。
「決めてないな。流石に出戻りは外聞悪いしなぁ……」
 生き延びる予定がなかった為、その後のことなんてこれっぽっちも考えていなかったと口にしたら本気で怒られる。
「ぬらりひょんの嫁になるんでしょう?」
「は? 冗談は奴の髪型だけにしてくれ。何であんな奴の嫁にならなきゃなんねーんだよ」
 嫌そうに顔を顰めたら、雪麗は目を大きく見開きパチパチと瞬きしている。
「だって、そういう約束したんでしょう?」
「寝耳に水だ! 俺は、そんな約束してねーし。つーか、珱姫に結婚申込んでおいて堂々と二股か!?」
 ぬらりひょん殺すと指を鳴らしていると、雪麗が違うと手を横に振った。
「珱姫に結婚を申込んだのは確かだけど既に解消されたわよ。馬鹿大将ったら漸く己の気持ちがどこにあるのか分かったみたいだし。それに、あんた約束してたんでしょう。魑魅魍魎の主になれば欲しいものをくれてやるって断言したそうじゃない」
「微妙に歪曲されているんだが」
 確かに言ったが、それは嫁ぐ前の話である。嫁いだ後は、祝いの品を用意しておくとも言ってあるにも関わらず何故歪曲されている。
「ちんちくりんな自称女神が、わらわの寵姫との約束を反語にするとは〜って言いながらぬらりひょんに詰め寄ってたわね」
「あの駄女神ぃぃいっ!! 何勝手なことを仕出かしてんだ」
 ノォォッと頭を抱えながら苦悩する私に対し、雪麗はお茶請けの煎餅をボリボリ食べながら宣った。
「あの女より宮子姫の方が断然良いわ。宮子姫が嫁なら奴良組安泰だしって満場一致の意見よ」
「何て嫌な意見なんだ。珱姫が哀れ過ぎる。俺が彼女の立場なら自殺してるぞ」
 身勝手すぎるだろう。特にぬらりひょん! 最低だ。
「は? 寝言は寝てから言いなさいよ。あんたみたいな図太い女が自殺に走るわけないでしょう。寧ろもっと良い男探して捕まえてそうじゃない」
などと一刀両断で切り捨てた。流石雪麗、私の性格をがっちり把握している。
「珱姫は花開院に身を寄せることで話はついているみたいだし、他の姫はあんたと一緒に江戸へ来るって言ってたわよ」
 もう私の江戸行きは決定事項になっているようだ。このままでは、多勢無勢でぬらりひょんの嫁に据えられてしまう。
 私の未来の為にも、珱姫を説得して嫁から逃げなくては!


 しかし、珱姫を説得する間を与えることなく、私が眠りこけている間にあろうことか宝船に乗せられていた。
 睡眠薬を持ったのは、恐らく雪麗だろう。やることが汚すぎて涙が出そうだ。
「佐久穂、江戸に戻ったら盛大に祝言を上げるぞ!」
「嫌だ」
「約束を反語にするつもりか」
「そんな約束はしてねぇ」
「羽衣狐を倒せば欲しいものをくれると約束したじゃろうが」
「そりゃ嫁ぐ前の話で、嫁いだから無効だ」
「白無垢と紋付き袴を用意していたってことは、ワシと祝言を待ち望んでいたってことじゃろう。照れるな」
「違うっつてんだろうが、この色ボケジジイがっ」
 堪忍袋の緒が切れた私は、ぬらりひょんの顔面を容赦なく殴りつけるが奴はニマニマと気持ち悪い笑みを浮かべていた。ドMか?
「佐久穂の母上が、孫が早く見たいと申しておったぞ。期待に添えねばならんな!」
 こいつ、外堀から埋めてきている。逃がす気がない。
「イヤダァアッ」
 私の抵抗空しく周囲の連携と云う名の策略にはまり、ぬらりひょんの嫁に据えられ鯉伴を生んだ後、産後が思わしくなく若くして天寿を全うしたのだった。

*prevhome/next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -