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330万打SS カオリ様リクエスト@ [ 2/21 ]


 ユリアの末裔とキムラスカ若き王子が幾多の苦難を乗り越えローレライを解放した巷では、美談として語られているが実際は美談でも何でもなかったとシンクは思った。
「本当、こんなの書いたやつ暇人だよね」
 バサッとテーブルの上に放り投げられた一冊の本には、明らかに肖像権侵害だろうと思わなくもないルークとティアのイラストが描かれていた。
「何々、聖なる焔の愛の軌跡? うわぁ……ドン引くわね」
 パラパラとページを捲り流し読みして後悔した。ガンッと乱暴に本をテーブルに叩き付け、ティアはドスのきいた声でミュウを呼んだ。
「ミュウ、これ燃やして頂戴」
「本燃やしちゃうですの?」
「景気良く豪快に燃やしちゃって!」
 本は貴重だと調教の如く仔ライガ共々教え込まれていただけあって、ティアのGOサインが出てもビビリ気味である。
「私は、こんなキモ乙女じゃない!」
「キモ乙女って……よくあるテンプレヒロインじゃないですか。理想ヒロインだそうですよ」
 優雅に紅茶を啜りながらペラペラと本を捲りながら感想を述べるディストに、ティアはキャンキャンと噛み付いていた。
「どこが理想? 私は、こんな女々しい女嫌よっ。虫唾が走るわ」
「あー……あんたは、男よりも漢らしいもんね」
「貴女の漢らしさにうっかり惚れた女性は数知れず。行く先々で貢がれてましたものね」
 オールトランド一誑しだと称したルークは、あの頃既にティアの性格をしっかり把握していたのではないかと勘ぐってしまう。
「ルークと私の間に恋愛要素皆無なのは知ってるでしょう。何だってこんなもんが出回るのよ!!」
 それは往生際悪くルークから逃亡しようとしているからだろう、とは二人は言わなかった。
 ローレライを解放したら、適当に理由をつけて世捨人生活を満喫する気満々だったティアを逃がしてなるものかと、ルークが情報提供して書かせた本だとは思うまい。
 それが、思いのほかベストセラーになったのだ。
「諦めてさっさと子供産めば丸く収まるだろう」
「そうですよ。諦めて子供の一人や二人生んでおけば、お偉方は静かですよ」
 自分達に被害はないしと言い切る辺り憎たらしい。お偉方の筆頭が、仮即位している現女王シュザンヌとその夫クリムゾンだから怖ろしいの一言に尽きる。
「私にショタコンになれと!?」
「外見年齢は十八歳なんですから知らない人から見れば釣合いは取れてますよ」
 慰めどころか追い打ちをかけるディストの言葉に、私はおいおいとテーブルに追いすがった。
「旅の間、ルークと同じ部屋で寝起きしていたのに何もなかったって誰が信じるのさ」
「護衛対象だもの仕方がないじゃない」
 あきれ口調で突っ込みを入れるシンクに、私は何を言ってるのだと言い返せば方々から白い目で見られた。
「ルークも大概だけど、あんたはさらにその上を行くよ」
「人のことを言えないとは、まさにこのことを言うのかもしれませんね」
 ハァと二人してこれ見よがしに大きな溜息を吐いていた。
「私は、隠居してゴロゴロしたいのよぉぉおっ」
 バンバンとテーブルを叩きながら主張すると、シンクが何か思いついたのかポンッと手を叩いて言った。
「隠居したら生活費はどうするのさ。このご時世、雇ってくれる相手なんていないよ。どうせなら怒涛の1年休む間もなく世界を奔走したご褒美ってことで陛下に長期休暇貰って旅行してきたら? 勿論、旅費も経費で落として貰えば暫く遊んで暮らせるでしょう」
「……そんなこと口にしたら殺されかねないじゃない」
 ドス黒い笑顔を浮かべて無言の圧力をかけてくるシュザンヌに、そんなたわけたことを口にしようものならプレッシャーで圧死させられる。
「僕が、話を通しておくよ」
 シンクは、私の制止を綺麗さっぱり無視してさっさと部屋を出て行ってしまった。
 後日、シュザンヌから長期休暇と旅費全額負担の太っ腹なご褒美を貰うこととなる。
 そこに彼らの思惑が潜んでいるとは、露知らず私は意気揚々と旅へと出かけたのだった。

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