小説 | ナノ

34.アキレウス兄妹に懐かれる [ 35/39 ]


 ムーの父親は、レーム帝国軍最高司令官にも関わらずとっても質素な家だった。
 それでも一般市民に比べれば裕福ではあるが、役職からすればもっと良い家に住めるだろう。そうしない理由も色々とあるらしい。
 門番に挨拶を済ませ勝手知ったる何とやらで厚かましくも玄関のドアを叩けば、中から勢い良くタックルをかましてくれた。
「ぐふぉっ、ミュロンなかなかに良いタックルするじゃないか!」
「ティア姉、待ちくたびれたぞ」
「ごめんよ。これでも一応社長だからね! 仕事持ちなのさ」
 ワシャワシャと頭を撫でて宥めれば、彼女は口を尖らせ文句は言うものの拗ねているだけなのが手に取るように分かる。
「勉強は、ちゃんと終わらせたか?」
「もちろんだ! 兄さんも待ってる。早く早く」
 私の手を掴み走り出すミュロンに、本当元気が有り余っているように見えるのは気のせいではないだろう。
「走らなくてもどこにも行かないぞ」
 落ち着けと促してみるが、
「そうだけど、一緒に入れる時間も限られてるだろう」
 彼女は、私の予想に反して大人びた答えを返してくる。マリアムも小さい頃はこんな感じだったなぁ……遠く離れたバルバッドを思い浮かべていたら背中にゴスッと何かがぶつかってきた。
「ティアさん! いつ来たの? お仕事は?」
「ムー、頼むからおばちゃんの腰は労わってくれ。危うくぎっくり腰になるところだったよ」
「ティアさん、十代だろう! 若いくせに年寄り臭いぞ」
 何気に暴言を吐くムーに、教育的指導と言いつつデコピンすると痛かったのか涙目になっていた。
「ティア姉、今日は何をするんだ?」
「私が得意とする棍術について教えてあげるよ」
「えー、棍より剣の方がカッコイイのに」
 棍の扱いを教えると言えば、目を輝かせて喜ぶミュロンとブーブーと文句を零すムー。それぞれ反応は区々である。
 将来、アキレウスの家督を継ぐ彼ならば剣を教えるのが妥当ではあるが、ぶっちゃけ私が扱える剣術はバルバッド特有の王宮剣術しかない。
 そんなものを教えたら、レームの上層部に私の素性がバレてしまいそれはそれで面倒なことになりかねない。
「色んな武器を扱えるってことは、それだけ戦略の幅も広がるんだ。剣と違い棍は、剣に比べ攻撃の距離が大きいし女子供でも負担が少なく扱える獲物だ」
「俺は、ファナリスだぞ!」
「でも、君達はファナリスの血を引いていると言っても半分だ。純血の彼らよりは力が劣るのは事実だし、一般の大人に押さえ込まれたらひとたまりもない。それは、先日の一件で理解しただろう?」
 例の誘拐事件を持ち出せば、ムーは苦い顔をして黙った。彼にとってファナリスの血を引いていることに誇りを持っているようだが、純血ではないことに劣等感を抱いているようだ。
 やれやれと私は、ムーの頭をポンと軽く叩いた。
「力だけが全てじゃない」
「言ってることがよく分からない」
「色んな経験をつめばある日突然分かるときがくるさ。で、二人ともやるのかい?」
 言葉で説明したって全て理解する人間なんていない。子供のうちから色んな経験をすれば、いつかは役に立つだろう。
「「やる!!」」
 良い子のお返事とばかりに、威勢良く返される。後に、棍術に嵌ったミュロンが腕試しと称しバルバッドで開催された無差別格闘技大会で優勝するのは五年後のお話である。

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