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少女、夫婦になる [ 41/41 ]


 騙し討ちのように昌浩の嫁にされた藍です。婚儀の最中に高淤神が雨を降らせたせいで、天気雨になり竜神の加護を受ける貴船の巫女というイメージを植えつけることとなった。
 頃合を見て離縁しようと考えていただけあって、思惑と全然違う方向に進んでいる状況が腹立たしい。
 婚儀だ披露宴だと慌しく時間が駆ける様に過ぎ、漸く落ち着けるようになったのは日付が変わってからだった。
 昌浩の部屋に戻るのかと思いきや、二人揃ってペイッと離れに放り込まれた。
 暫くは、ここで生活をするらしい。
「昌浩、衣冠束帯脱いで。そんな格好で寝そべっていたら皺になるでしょう。物の怪、そこの葛籠箱取って」
「人使い荒いぞお前」
「人じゃないでしょう、あんた」
 ブチブチと文句を零す物の怪を邪魔とばかりに足で避け、昌浩に新しい唐衣を手渡し脱ぎ捨てられた衣冠束帯をテキパキと片付けた。
 昌浩は、もそもそと起き上がりバサバサと脱いでいく。前は、恥らって中々脱がなかったのに随分と変わったものである。
「後は三日餅だけね」
「そう言えば、三献の儀は省くとかじい様言ってたっけ」
 同じ家に一緒に住んでいるのだ。三日餅も省けば良いのにと思ったが、下手に口を出してこれ以上面倒なことになるのは御免である。
「これで昌浩も妻帯者か……」
「何黄昏てんの。鬱陶しい」
 感慨深げに呟く物の怪に冷ややかなコメントをすれば、珍しく物の怪を茶化すことはせず庇う勾陳の姿があった。
「そう言ってやるな。騰蛇は、昌浩が生まれた時からずっと面倒を見てきたんだ。父親の如く」
「いっそうのこと、父ちゃんに名前変更すれば良いのに。ね、騰蛇」
と茶化せば、案の定物の怪がギャオゥッと噛み付いてきた。
「父ちゃん言うな!」
「物の怪ったら、娘を持った父親みたいに過保護よ」
「嗚呼、確かにしっくりくるな」
「でしょう」
 物の怪をからかいつつ、結局のところ何も変わらない状況に私はホッと安心した。
 離れに押し込められ子作りしろとか言われた日には、速攻家出していただろう。
「昌浩、晴明から預かってきたものだ」
 勾陳は今思い出したと言わんばかりに、胸元から取り出した一冊の本を昌浩に投げて寄こした。
「何これ?」
「昌浩に一番必要な本だ! 頑張れよ」
 やけに良い笑顔で親指を立てる勾陳の姿に、私は嫌な予感がした。
「騰蛇行くぞ」
 勾陳は、物の怪の首の皮を掴み持ち上げると異界へと姿を消した。そそくさと逃げる勾陳からして、恐らく碌でもない本であることは間違いないだろう。
「昌浩?」
 無言になり本を握り締めている彼に声を掛けると、ブッと鼻血を噴出し気絶していた。
 そんなに刺激の強いものなのかと彼の手の中にあった本を引ったくりペラペラと捲れば、現代のエロ本なんて目じゃないぜと言わんばかりの精密なタッチで詳細に描かれていた。
 出雲旅行の時は、その場の勢いで押し倒そうとした昌浩だったが、この手の本は刺激が強すぎたようだ。
「エロ本で鼻血噴いて倒れるなら、暫くは大丈夫かしら」
と高を括っていた私だったが、後日嫉妬に駆られた昌浩に貞操を奪われる事件が勃発するなどこの時予想だにしなかった。

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