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少女、祝言を挙げる [ 40/41 ]


 周りに押し切られる形で祝言を挙げることになった藍です。正に晴天、絶好の祝言日和だと豪語するのは義母となる露樹だ。
 彰子は残念ながら人前に出すことが出来ない為、嵐山のとある廃屋にひっそりと身を隠している。
 何でも、昨年の冬に十日ばかりほど利用したのだとか。彰子の存在を知っている狸ジジイの孫達に隠す必要はないだろうと悪態を吐いたら、安倍一族でも色々とあるらしい。
「肌の色が白いから紅は薄いものが似合うわね」
 満面の笑みを浮かべながら化粧を施す露樹に、私は最早溜息しか出ない。
「何だい。溜息なんて吐いて。辛気臭いぞ」
 如何にも楽しいですと言わんばかりにからかってくる勾陳を睨みつけ、後数刻したら始まる大々的な婚礼の儀を思うと気分も落ち込むばかりだ。
「……人の多さに辟易していただけよ」
「仕方がありませんわ。昌浩様の妻となられる貴女を一目見ようと暇な貴族が集まってきているのですから」
「宮中は、娯楽も話題もないからな。皆、面白がっているだけだろう」
「昌浩様が、元服された時もこんな感じでしたよ。規模は、これより小さかったですが」
 天一は、ホホホと口元に手を当てて微笑しながら何気に酷いことをさらりと云っているから始末に終えない。
「こんなに美人で気立ての良いお嫁さんを見せびらかせるなんて私も鼻高々だわ」
 自慢しちゃおうと言っている露樹の言葉は聞かなかったことにする。
 下手に突っ込んだら、それこそ墓穴を掘りかねないからだ。
「それはそうと、まさか貴船神社から神主と巫女が派遣されるとは思わなかったわ」
「一応、藍は高淤神に遣える巫女として地位を確立してるからな。晴明だけでなく、高淤神からも何かしらの神託があったと思うぞ」
 シレッと嫌なことを宣う勾陳に、私は顔を盛大に引きつらせた。高淤神が私のどこを気に入って肩を入れるのか不明だが、本職の彼らからしたらあまり良い印象は持って貰えないだろう。
 面識もなければ、突出した能力など何もないのだから。
「式は、神泉苑の一角に作った野点で行われる。巫女が、迎えに来るまではここで待機。藍の親族は居ないから、貴船神社の関係者が座る事になっている。全員揃ったところで、お祓いを行い神主から祝詞奏上を賜った後、三三九度の盃を交わし神楽舞の奉納が終ったら誓詞奏上を行い……」
「ああーっ! もう、覚えてるから説明しなくて良いわ。聞いているだけで頭が痛くなりそう」
 もう聞きたくないとばかりに顔を背けると、
「藍様、一生に一度の行事ですよ。失敗したくありませんでしょう
「……すみませんでした」
 微笑を絶やさずコォォオッと冷気を放ちながらにじり寄る天一に、私は早々に降参の旗を揚げた。正直彼女に勝てる気がしないのだ。
 これが勾陳なら突っぱねられるのに、彼女に同じ事をしたら命の危険に晒されかねない。
「誓詞奏上の後に玉串奉奠を行い、親族盃の儀が済みましたら式は終了となります。その後、安倍邸に戻り披露宴ですわ」
 私の謝罪に溜飲を下げた天一は、キビキビと勾陳の言葉を補足したのだった。

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