小説 | ナノ

初代|切欠は貴方M [ 19/145 ]


 ぬらりひょんは、後悔していた。佐久穂を旅行に行かせるんじゃなかったと。
 旅先で律儀に電話を掛けてきてくれた彼女の隣には、必ずリクオが傍に居た。
 好きなのかと鎌を掛けてみると、佐久穂はあっさりと引っかかり答えずとも分かってしまうくらい分かりやすい。
 苛立ち紛れに嗾けるようなことを言ったら、旅行先から戻ってきた彼女がリクオと仲睦まじく歩く姿を見て初めて彼女に恋をしていたのだと気付いた。
 本当に今更だと自嘲気味に笑みが零れる。惚れた女が、まさか自分の孫に惚れているとは誰が思うだろうか。
「で、上手く行っておるのか?」
 佐久穂に会うことを止めることなどできず、相談者という嬉しくない位置づけに甘んじながら普段通りに振舞う自分はなんと滑稽なことか。
「何かですか?」
 自分のことには、とんと無頓着な彼女は首を傾げる。
「リクオと何か進展はあったのかって聞とるんじゃ」
 そこまで言うと、彼女は顔を真っ赤にして俯いた。そんな姿も可愛いが、彼女を一喜一憂させているのが自分ではないのが腹立たしい。
「……遊びに誘われました」
「ほう、でぇとじゃな」
「そそそそんなんじゃないです」
 どもる佐久穂に、ぬらりひょんはドロリとした負の感情が湧き上がる。
「佐久穂よ、惚れた男を誘惑するくらいの気概を持て。横から鳶に掻っ攫われるぞ」
「ゆ、誘惑! む、無理です。私には出来ません」
 ブンブンと激しく頭を横に振る彼女に、ぬらりひょんは薄く笑みを浮かべる。
「なぁに、乗り掛かった船じゃ。ワシが教えてやる」
 無垢な彼女を自分色に染めた時、リクオはどう思うだろう。
 あれは、自分に良く似ている。恐らく、意に介さず手を出すだろう。
 だが、佐久穂はどうだ。彼女は律儀で真面目な性格をしている。男女の関係になれば、裏切れないはずだ。
「佐久穂は、魅力的な女じゃ。今は、磨けば光る原石。ワシが、ちゃんと磨いてやる」
「で、でも……」
 恥ずかしいのか俯いてしまった佐久穂に、ぬらりひょんは好都合と間合いを詰め抱きしめる。
「練習じゃと思えばいい」
 ピクンと佐久穂の肩が小さく震える。頭振る彼女の頭を撫でながら、ぬらりひょんは耳元で呟いた。
「佐久穂、ワシに身を任せろ」
 ぬらりひょんは、佐久穂の言葉を遮るように口付けを落とした。

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