小説 | ナノ

初代|切欠は貴方L [ 18/145 ]


 GWで妖怪に出会ったのは私だけだったようで、眼鏡が壊れてしまった原因については言葉を濁した。言ったら、ゆらが『滅してやる!』と使命感を燃やすに違いない。
 眼鏡を外してしまうと殆ど見えないため、流石に一人で帰すのは危ないとリクオが送りを買って出てくれた。
 大丈夫だからと一度は断ったものの、やんわりと諭されて気付いたらリクオのペースに嵌っている状況だ。
「奴良君も疲れているのに、ごめんなさい」
 テクテクと横を歩くリクオに謝ると、彼はふんわりと笑顔を浮かべて言った。
「気にしないで。僕がしたくてしているんだから、ね」
「……ありがとう」
「眼鏡してた時も可愛かったけど。無い方がもっと可愛い。コンタクトにしないの?」
 サラリと赤面するようなことを宣うリクオに、私は今多分顔が真っ赤になっていると思う。
「コンタクトにしてみようとしたんだけど、自分で取れなかったから諦めたの」
 ソフトタイプを選んで処方して貰ったのは良いが、目に入れることは出来たが取り出すことが出来ず店員さんに取って貰った苦い記憶がある。
「そうなんだ」
 クツクツと笑うリクオに、やっぱり言うんじゃなかったと唇を尖らせる。
「拗ねないでよ。でも、コンタクトにしちゃうと敵が増えるから今のままで良いかな」
「え? 何か言いました?」
 あまりにも小さな呟きだったせいか、聞きなおすと彼はゆるりと首を横に振った。
「何も……それより、もう直ぐ着くよ」
「いつも一人だから、何だか早く着いた気がします。送って頂いたお礼にならないかもしれませんが、お茶飲んで行きませんか?」
「今日は、遠慮しておくよ」
 やんわりと断りを入れられたので、私は調子に乗りすぎたかとバツ悪い顔を浮かべる。
 彼は、そんな私に気付いてか悪戯っ子のような顔をして言った。
「お家に上がっちゃうと、送り狼になりそうだから。お礼は、今度僕と遊びに行ってくれる?」
「あ、え……あの…」
「二人っきりで遊ぼうね。これ、僕の携帯番号とアドレス。登録しておいて。後でメールしてくれると嬉しい」
 リクオは、携帯番号とメールアドレスが書かれた紙を私の手に持たせるとマンションの入り口で別れた。
 気を持たせるような素振りに、私の頭は相当混乱している。
 誰にでも優しい彼が、極々平凡な女を相手にするはずがない。
「単に遊びにいける人が居なかっただけよ」
 うんうんと一人で納得している私をベランダから様子を伺う人影があるとは気付くかなかった。


 久しぶりの我が家に入ると、不機嫌そうなぬらりひょんが出迎えてくれた。
「お帰り佐久穂」
「ただいまです。ぬらりひょんさん」
 久しぶりや今晩はといった挨拶が頭に浮かんだが、お帰りと言ってくれる彼の言葉にそれを返すのは何だかおかしくてただいまと返せば、表情が少し柔らかなくなった。
「旅行はどうじゃった?」
「楽しかったですよ」
「そうじゃろうな。リクオとも上手くいっているようじゃし」
 そういう彼の表情は、やっぱりいつもと違って怒っている感じがする。
「ぬらりひょんさん、どうかしたんですか?」
 怒っている理由が良く分からず疑問符を浮かべていると、
「眼鏡はどうした」
と質問で返された。
「旅先で壊してしまいました」
「……」
 眉間の皺がさらに深く刻まれたのを見逃さなかった。ぬらりひょんが怒ってる理由って、醜い素顔を晒したからなのか。そうだとしたら本気で泣きそう。
「佐久穂、人前で素顔を晒すな」
「は、はい」
「よし」
 鷹揚に頷くぬらりひょんとは反対に、私の気分は沈んだままだった。

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