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53.私が上官? 中佐の勘違いです。 [ 54/72 ]


 久々のベッドに寝過ごしたのはご愛嬌だと主張したい。アスランが起こしにきてくれなければ、昼を回っていても二人して寝ていたと思う。
 くわぁぁっと大きな欠伸を一つ零し猫のように伸びをしていると、それをしっかり見ていたアスランに笑われた。
「珍しいですね。ティア殿が、寝坊するなんて」
「警備がしっかりしててフカフカのベッドで寝たら誰でもそうなると思います」
 そう切り返すと、彼はニッコリと綺麗な笑みを浮かべて礼を言われた。
「ティア殿が仰られた件ですが、カーティス大佐の国際指名手配書をキムラスカとダアトに回す手続きは済んでいます。キムラスカ側からの許可がなければ兵達の入国は厳しいですね」
「キムラスカには、彼を通じて話をつけます。どうせ、瘴気問題で両国が協力体制にならないと話にならないでしょう。第五師団が持っているラクシュミーで移動すれば時間短縮になりますし」
 私の提案に、アスランは微妙な顔で流石にそれは……と言葉を濁している。軍艦で敵国に乗込むのは非常識だと思っているのだろう。
「国境付近までラクシュミーで移動するのであって、キムラスカにそのまま乗り込むわけじゃないから大丈夫ですよ。アルマンダイン将軍には、こんなこともあろうかと事前に説明してありますから」
とフォローを入れれば、いつの間にと目を剥かれた。コーラル城にアクゼリュスの民を移す際にもしかしたらと打診していたのだが、結局その時はラクシュミーの出番はなく終わってしまった。
「抜け目がない方ですね」
「そういう性格なんです」
 褒めるアスランに対し、私は肩を竦めて微苦笑を浮かべて流した。
 軽く今後の打ち合わせをしていると、書類を手にしたマルコが私を見つけて小走りで近寄ってきた。
「ティア殿、ここにいらっしゃったんですね。フリングス少将、お話中失礼します」
 アスランに一礼すると、彼は私に持っていた書類を手渡した。
「ティア殿、それは一体?」
「嗚呼、ジェイド・カーティスの逮捕状です。マルコ中佐、準備の方は出来てますか?」
「はい、バッチリです! 第三師団の中でも選りすぐりの精鋭で固めました」
 いい笑顔を浮かべて答えるマルコを見て、余程あの無能眼鏡は部下に嫌われていたのがよく分かる。
「自称天才の無能眼鏡は、阿呆で間抜けですから数で押せば勝てます。物理防御が低いので、詠唱する間を与えず滅多打ちして下さい」
「勿論です!」
「それから、回復はこまめにしリバースドールも携帯すること。装備はしっかり行って下さいね。必要なものは、軍部から支給させればOKよ。第五師団から第七譜術師を借りてパーティを組むと尚良いですね」
 等とアドバイスをしていたら、アスランからストップが掛かった。
「ちょっと待って下さい。マルコ中佐、何故ティア殿に報告をするんですか。ティア殿も、普通に返してるんですか」
「眼鏡の首をかっ飛ばす提案をしたのは私だからじゃないんですか?」
「ティア殿が上官なのでは?」
 お互いの答えに「えっ?」と顔を見合わせる。色々裏で手を回していたせいで、マルコ中佐は私が第三師団の上官になったのだと勘違いしていたらしい。
「私、マルクトの軍人じゃないので上官にはなれません」
「え? そうなんですか!? じゃあ、私達の上官は?」
 捨てられた犬のようにウルウルと瞳を潤ませて私の顔を見るのは止めて欲しい。おっさんが、しても気持ち悪いだけだ。
「フリングス少将どうなんでしょうか?」
「え? 私ですか?」
 いきなり振られた彼は、目を白黒したのち無言になった。無能眼鏡の部下だけあって灰汁が強い連中を束ねるのは少々骨が折れるだろうが、私の知ったことではない。
「アクゼリュスが万が一崩落した場合の為に、第五師団のメンツにはフォースフィールドを全国津々浦々に布教するという大切なお仕事がありますし、フリングス少将は私達と一緒にキムラスカに行って報告という大役がありますからねぇ。丁度、マクガヴァン将軍がコーラル城にいらっしゃいますから第三師団の面倒を見て貰えば良いんです」
 これぞ秘儀・押付けである。無責任、なんとでも言うがいい! 仕事は人に押付けてなんぼだとは口には出さないが、私の言いたいことが分かったのか顔を引きつらせるアスランに対し、成る程と納得しているマルコがいた。

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