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52.ピオニー泣き崩れる [ 53/72 ]


 立場は違えど二度目の謁見の場に立っている。
「お久しぶりです陛下。色々と申し上げたいことはあるのですが、ジェイド・カーティスの首を切り捨てても問題ありませんよね?」
 否と言ったらマルクト消すぞと無言の圧力を掛けると、何故か涙目になっている。
「ティア、落ち着け」
「そ、そうだぞ。頭だけは取り得がある男。あれを失えばマルクトに大きな損害が……」
 ルークの言葉に、ピオニーは天使を見たと言わんばかりに彼の言葉に乗っかろうとしたので一刀両断してやる。
「既に損害を出していますが何か? 先日お会いした際にジェイド・カーティスの身柄をキムラスカへ引渡すよう要請したはずですが、陛下が保留にされたことで更なる惨事を引き起こしました。幼馴染という理由で庇ったことで、亡くなった者・傷ついた者達にどう申し開きするのですか?」
「……すまん」
「謝られても死んだ人間は生き返りません。それは、陛下自身もよくご存知でしょう」
 私の一言に、彼は目を見開き力なく項垂れた。畳み掛けるなら今だろうか。
「役立たずな天才などマルクトに必要ありません。マルクトが生んだ譜業の天才サフィール・ワイヨン・ネイスが居れば十分です」
「しかし、サフィールは行方不明だ。どこに居るか分からんぞ」
「現在、ファブレ家で瘴気対策の譜業開発に尽力して頂いております。ジェイド・カーティスを野放しにすれば、更なる不利益を被りオールドラントからマルクトが消えてしまいますよ」
 消す気満々で釘をさせば、ピオニーは泣きそうな顔でジェイドの馬鹿と現在逃亡している元凶に対し文句を零していた。
「……分かった。ジェイドの捕縛を許可する。抵抗するなら止む終えん」
 葛藤の末に出された答えに、私は満面の笑みを浮かべた。
「もう一つ、ガルディオスの遺児の消息についてですが、ガイ・セシルと名前を変えファブレ家に忍び込んでいたのは前回報告させて頂きましたね。その彼が、ファブレ家から宝剣ガルディオスを盗みジェイド・カーティスと共にカイツールにて関所破りを行っています」
 新たな爆弾投下に、ピオニーは泣き崩れた。いい気味だと冷ややかな視線を送る私と違いルークは心底可愛そうな目で彼を見ている。
「……もう終わりだ。首を括るしかないのか」
 ブツブツと危ない独り言を呟き始めたピオニーに、私は鬱葱と笑みを浮かべて取引を持ちかけた。
「陛下、ガルディオスの伯爵位を私に頂ければ何とかしましょう」
「何とかできるものなのか?」
「ええ、してみせます。それに、ファブレ公爵家に嫁ぐのに、伯爵位でも釣合わないでしょうが無いよりはマシでしょう」
 テメェが勝手したせいで嫁ぐ羽目になったんだぞこの野郎と笑顔で脅せば、ピオニーの怯えた顔が見れて少しだが溜飲を下げた。
「分かった。ガルディオスの伯爵位を与えよう。後で書類を作成する。それで、ガイのことはどうするつもりだ?」
「ルーク様、ガイのことですが首切っても良いですか? 物理的にスパンッと」
「構わねーけど、証拠隠滅って意味でか?」
 ルークの態度を見る限り親友って感じではなかったが、あっさりと許可が下りた。
「ええ、そうです。ここでの会話は、公爵夫妻には内緒でお願いしますね」
「内緒にしても意味ないと思うぜ。母上達知ってるだろうし」
 あの腹黒夫妻は、やっぱりガイの正体に気付いていたか。でも、何も言ってこない時点で考えがあるのだろう。
「夫妻が動く前にガルディオスの遺児が見つからずフェンデの姫が伯爵位を継承したと公表すれば問題ありませんから」
 尤も、ホドが崩落したことでガルディオスの遺児であることを証明するものは何もないのだけれど。それに気付いているものは居ない。
「陛下、ジェイド・カーティス捕縛のため第三師団をお借りしますね」
「……何故だ?」
「腐っても師団長を務めるほどの相手ですし、ジェイド・カーティスの他にガイ・セシルと導師守役が同行しています。念には念を入れた方が良いでしょう」
 ニッコリと笑みを浮かべる私に、ピオニーは疲れた顔で是と頭を縦に振った。


 謁見を無事済ませた私達は、ピオニーが用意してくれた寝室で寛いでいた。
「なあ、ティア」
「なぁに?」
 ベッドの上でストレッチをしながら返事を返すと、先ほどのピオニーとのやり取りについて質問された。
「ジェイドを捕まえるのに第三師団いらねぇだろう?」
 俺一人で十分だと言いたげなルークに私はニヤッと人の悪い笑みを浮かべて言った。
「元上司を公的にボコれるチャンスなのよ。俄然やる気も出ると思わない?」
 ストレス発散万歳と言い切る私に、ルークは心底呆れた顔で私を見ていた。
「それだけか?」
「そうよ。軍籍抹消された挙句、部下が自分を捕縛しに来るとは無能眼鏡も考えてないでしょうね」
「流石ご主人様、鬼畜ですの〜! ボクも無能眼鏡を丸焦げにしちゃうですの〜」
 ピョンピョンと私の周りを飛び回っていたミュウだったが、仔ライガの猫パンチを喰らってドアの方まで飛ばされている。
「お前ら……ハァ」
「何溜息ついてるのよ?」
 きょとんと首を傾げる私と仔ライガに、ルークは言っても無駄と思ったのか何でもないと言葉を濁した。

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