小説 | ナノ

47.観光気分でアクゼリュス入りしました [ 48/72 ]


 髭の愛人だけあって元教官は酷かった。比べてはなんだが、セシル将軍こそ軍人の鑑に見えて仕方がない。
「ティア、何故そんな出来損ないと一緒にいる。こっちに来なさい。シンク、貴様……閣下を裏切ったのか!」
 堂々とルークを虚仮下ろすリグレットに容赦なくグラビティが炸裂した。
 岩場から足を滑らせベシャリと蛙のように潰れた彼女を見る目は冷ややかだ。
「私、貴方とは初対面でしてよ。いきなり人の愛称を呼んだかと思うと、我が婚約者を愚弄するとはダアトは余程戦争をしたいようですね」
「将来性も計画性もないヴァンについて行く馬鹿がどこにいるんだよ」
 ニッコリと笑みを浮かべてそう嘯くと、リグレットは何が起こったのか理解できずにポカンとしている。
 ケッと吐き捨てられたシンクの言葉には積年の恨み辛みが積もっている気がしなくもない。
「神託の盾騎士団は、余程人員不足に陥っているのね。軍人としては、お粗末ではなくて? 愚かなヴァン・グランツの愛人だもの仕方がないのでしょう」
 フフフッと笑み零せば、リグレットは顔を真っ赤にして怒鳴りたてる。その様は、酷く醜く滑稽だ。
「ティア、一体どういうつもりだ!」
「貴方に愛称を呼ばれることを許してはおりません。口を慎みなさい」
 リグレットの後頭部に足を乗せたまま体重をかけると、彼女は逆らうことなく地面とキスをする羽目になった。
 ガンッといい音が出たので、顔面強打は免れないだろう。
「メシュティアリカ・アウラ・フェンデ、これが私の本名です。どこぞの主席総長の妹と容姿が似ているそうですが、間違えられるのも怖気が走りますね。タルタロス襲撃の指揮をした輩が、よくもまあノコノコと顔が出せたものです。ルーク様、彼女の身柄はマルクトへ引き渡して頂いても宜しいですか?」
「良いぜ。おい、譜術封じの手枷を嵌めて監視しろ。逃亡する素振りを見せれば、足を潰しても構わない」
 そこまで言い切ったルークに、リグレットは目を大きく見開き彼を凝視している。愚かだと断じたその言葉が、己に跳ね返ってきているのだから笑いが止まらない。
「シンク、お遣いをお願い」
「へいへい、リグレットをどこへ連れて行けば良いんだよ」
「アリエッタの魔物を借りてグランコクマの軍本部へ行って引き渡してきて頂戴。私から特殊勤務手当一万ガルド×日数分出すわ」
「マジで!? やる! 行く! 任せろ」
 やる気満々のシンクに、特殊素材で出来た紐でリグレットの身体をグルグルに縛り上げ彼に手渡した。
 因みにシンクだけでなく、同行しているファブレの従者達の給与はこんな感じである。
 日当一万五千ガルド+危険手当一万ガルドの計二万五千ガルドが、ファブレ公爵家から支払われている。更に、今回シンクには別に一万ガルド×日数分が追加される。
 神託の盾で六神将をしていた頃よりも金回りは良いだろう。
「シンク一人でも大丈夫だとは思うけど、リグレットが逃げたら本末転倒だから数名チョイスして連れてって。勿論、彼らにも特殊勤務手当支給するからね」
 それを聞いた待機組の目の色が変わった。そんなに欲しいか金が。モチベーションを上げるには、一番手っ取り早いのがお金なのだが本当に分かりやすい。
 上機嫌のシンクと共に強制退場となったリグレットを見送り、私はさてととルークの方に身体を向けた。
「ここを下ると、アクゼリュスの入口です。瘴気が溢れてますので、聖歌隊を先頭とし中へ進みます。ルーク様、スケジュールは頭に叩き込んでありますか?」
「おう、入口に入ったら記念撮影してアクゼリュスの土を瓶に詰めて帰る!」
「そうよ。危険だからくれぐれも一人で行動しないでね。皆さんも、聖歌隊から離れず且つ、飴は途切れることなく舐め続けること。フリングス将軍、ルークを頼みます。では、出立!」
 私は、先陣を切り即席聖歌隊を引っ張る形でアクゼリュス入りを果たしたのだった。

*prevhome#next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -