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46.デオ峠の入口にやってきました [ 47/72 ]


 カイツールから三日。私達は、馬車を利用してデオ峠の入口付近に着ていた。
 これから瘴気が充満している場所へ向かわなくてはならないせいか、口数も減り皆ピリピリした空気が漂っている。
 日は天に昇ったばかりだが、私は今日はここで野宿することに決めた。
「野宿ですか。まだ、進めると思いますが」
 困惑気味のアスランに、
「そうなんですけど、これから瘴気が満ちた場所へ私達は向かわなくてはなりません。心の準備も必要ですし、何より明日はデオ峠の中腹にある小屋まで向かいます。軍属の人間は苦にならないでしょうが、この部隊にはメイドや料理人も同行しています。要所要所で休憩を取らなければ、動けなくなってしまいます」
と答えるとアスランは目を見張った後、綺麗な笑みを浮かべていた。笑われる理由がなくて首を傾げていたらルークに呼ばれた。
「ティア、テント出してくれ」
「はいはい。じゃあ、呼ばれてるんで行きますね」
 私は、アスランに一礼しルークの元へと走り寄ったのだった。


 これ以上進まないと決めた為、皆自由に時間を潰している。テントの設営を手伝う王族ってどうなんだと思わなくもないが、ルークが好きでやっているのだから何も言うまい。
 ルーク用のテントを中心に四方を固めるようにテントが点在している。
 私は、テントを避けて手頃な棒を手にガリガリと地面を削っていると仔ライガの背中に乗ったミュウが問い掛けてきた。
「ご主人様、何してるですの?」
「防御用の譜陣を描いてるのよ」
「敵さん来てもルークさんにボコボコにされちゃうのに?」
 アクゼリュスは目と鼻の先にある場所で、ヴァンの部下がトチ狂って襲い掛かってこないとも限らない。
 マルクトで将軍職に就いているアスランに、ソードダンサーを一撃で撃破するルーク、辛口なのはコメントだけでなくダアト式譜術で敵を容赦なくフルボッコにするシンク。
 向かうところ敵なしな状態で襲ってこられても、ミュウの言うとおり高確率で返り討ちにすることはできるだろう。
「安眠妨害されるのは避けたいからね」
「ミュゥ、確かに夜中に叩き起こされるのは嫌ですの」
「分かったらあっち行ってなさい。邪魔よ」
「はいですの!」
 良い子のお返事を返したミュウは、仔ライガの耳を引っ張り移動を促している。
 見かけによらずなかなか侮れないチーグルだ。仔ライガを自分の移動手段に使うとは恐れ入る。
 シンクが、ミュウと入れ違いにやってきたが手伝う素振りも見せない。ちょっとは手伝おうぜ2歳児、と思っていたら渋い顔をされた。
 どうやら心の声は、駄々漏れだったらしい。
「拳闘士の僕が手伝えることなんて高が知れてるだろう」
「うん、そうだけど。労わるくらいしないとモテないぞ」
「別にあんたにモテても仕方がないし」
 スパッと私の言葉を一刀両断するシンクに、ひくりと頬が引きつった。可愛くない。
 私はシンクを無視して譜陣に取り掛かる。譜陣には、魔物避けだけでなく人目を避ける効果もあるものを多用している。
 発動時に魔力の消費はするが、陣が壊れるまで永続的に効果は続く優れものだ。
「別に術を掛けなくても、暴走七歳児なら余裕で返り討ちにするだろう」
 シゲシゲと観察しながらくれた感想は、奇しくもミュウと同じだった。彼らの中のルークは、一体どんな人間像になっているのだろうか。
「ルークに戦わせたら立つ瀬ないじゃない」
「良いんじゃない。公爵も好きにさせれば良いって言ってたし」
 嫌な真実に私は眉を潜めた。クリムゾンめ、ルークのことを丸投げしやがったな。
 くそっと舌打ちする私に対し、何でこんな女が良いんだかとシンクが訳の分からないことを宣っていた。
「本当に行くわけ? 預言に詠まれているんだろう」
「行くわよ。王命だし。パッセージリングの耐久性が幾らヤバイと言っても直ぐにどうこうなるとわけないでしょう。自然崩落まで多少時間があるでしょうし、さっさと行ってサクサク帰るわよ」
「考えの足りない髭や頭の弱い被験者が仕掛けて来ないとも限らないけど」
 シンクの懸念は尤もで、私もそれについては考えていた。ヴァンとアッシュは、王城の地下牢に幽閉されている。
 シンク・アリエッタ・ディストの三人は仲間に引き込んだが、男の趣味最悪なリグレットとキムラスカに恨みを抱いているラルゴが動かないとも限らない。
 それにナタリアのこともある。ナタリアがキムラスカに戻り、アッシュがオリジナルルークと知れれば、考えなしのお姫様のことだ。逃亡の手を貸すことは目に見えている。
「シンクは、デオ峠の中腹で待機。異変が起きたら直ちに下山し、ダアトに行って頂戴」
 私の言葉の意図が読めたのか、シンクは心底嫌そうな顔をした。
「よく回る頭だよね」
「褒めても何も出ないわよ。采配は、任せるわ」
「了解」
 シンクの返事に満足した私は、薄く笑みを浮かべた。

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