小説 | ナノ

11.いざ、シンドリアへ [ 12/39 ]


 船に乗ること1週間、最新鋭の快速船ローレライ号は伊達じゃなかった。
 普通なら一月近く掛かる船旅もローレライ号に掛かると、たった1週間で目的地へ着いてしまうのだから公務の合間に作って良かった。
 鳩で先触れを出してはいたが、まさか一週間で到着するとは思うまい。私も予想していなかった。
 港は、突如現れた快速船に完全に浮き足立っている。
「王子、この状況ヤバクないですか?」
「一番早い鳩を使ったから船よりも早く着いているはずなんだけど到着予定日は書いてなかったかも」
 一旦沖で停泊して、誰か寄こして入港許可を取らないことには先に進めなさそうだ。
 入港許可申請書と王家の紋章が入ったバングルを外して押付けると、私はいい笑顔で命令した。
「カシム、ちょっと行って事情説明こい」
「俺がかよ!」
「何事にも経験だ。はい、いってらー。一応張りぼてでも良いから礼儀正しくなー」
 手をヒラヒラさせて入港許可をもぎ取って来いとGOサインを出すと、彼は小船に乗せられるまでブツクサと文句を零していたが聞こえない。
 待つこと1時間、飛んできたシンドリアの官僚を連れて戻ってきたカシムに私は労いの言葉を掛けた。
「意外と早かったね。もっと時間が掛かるかと思ったんだけど」
 その他諸々手続きを考えれば異例中の異例である。お茶飲むかいと差し出せば、カシムはガクッと項垂れている。
 そんな彼を放置し、席を立つと隣に立っているシンドリアの官僚に声を掛けた。
「突然の訪問で申し訳ない。バルバッド国王ラシッド・サルージャより書簡が届いているかと思うが、予定より大分早い到着となってしまったようだ。私は、アブマド・サルージャだ。お見知りおきを」
 ポカンとした顔で私を見ていた青年は、あわあわと頭を下げて挨拶をしてくれた。
「アブマド殿下、ようこそシンドリアへ。私は、ジャーファルと申します。お出迎え出来ず本当に申し訳ありませんでした」
「こちらが、急に押し掛けてきたようなものだ。貴殿が謝罪する必要はない」
「お心遣いありがとう御座います。入港の準備は整っております」
 快速船ほどではないが、そこそこの大きさの船が先頭に立ち誘導するように港へと案内してくれた。
 出迎えた人の中に、明らかに位が高いであろう人物を見つけ顔を引きつらせた。
「シン、ちょっ……あんた何外に出てきてるんですか!」
 ジャーファルの焦ったような顔と嗜める小さな声に、どこまでも型破りな男が王だとは遣える彼は大変だろうと同情した。
「ようこそ、シンドリアへ! アブマド王子、そしてバルバッドの民よ。歓迎するぞ」
 満面の笑みを浮かべて歓迎の意を示してくれるのは嬉しいが、隣にいるカシムに対し言っている。
「王、アブマド王子はその隣です」
 ジャーファルがくいくいと裾を引っ張り訂正を入れた瞬間、シンと呼ばれた男が私の顔をジーッと眺めたかと思うと人の胸をペタッと触った。
「無いな」
「あ、無いなじゃねーだろうが! この変態がっ!! すみませんすみませんすみません」
 容赦ない拳骨を振るい自国の王を地に沈めたジャーファルは、土下座せんばかりの勢いで謝ってくる。
 他人の本気キレを目の辺りにすると、怒る気にもなれずあっさりと許したらカシムに睨まれた。
「俺は、シンドバッド。シンドリアの王だ」
「王様直々に出迎えて貰えるとは光栄です」
 巨大な猫を被りながら手を差し出せば、
「俺もこんなに早く到着するとは思わなかったぞ。しかし、別嬪だな! 男だってのが勿体無い」
 ガシッと手を握りと不敬満載なことを宣った。
 シンドバッドの発言に青ざめるジャーファルを含む政務官達といきり立つカシムを含めたうちの兵達。
 目の前の男は、ニヤニヤと笑っているあたりワザとやっているとみて良いだろう。
 敵意は無いが、こちらの反応を伺っているあたり一筋縄ではいかなそうな男だという事がよく分かる。
「バルバッドは、貿易で成り立っている国です。商いはスピードが命ですから、あの快速船もスピード重視で作られた船なんですよ」
「そうなのかい?」
 興味深そうに船を見上げるシンドバッドに私は笑みを浮かべて言った。
「興味がおありのようだ。船は売れないが、滞在している間は思う存分調べて下さって結構ですよ」
 調べたところで譜業の原理や譜術の理を理解出来るとは思えないし、転用できるはずもない。それが分かっていて言うあたり、私も相当意地が悪い。
「王、立ち話もなんですから王宮に行きませんか」
「それもそうだな! こっちだ。着いて来い」
 ジャーファルの提案に、シンドバッドは頷き私達を王宮へと案内してくれた。

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