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少女、思わず同情される [ 38/41 ]


 神様が、思いのほか薄情だと知ったのはこの世界に来てからではある。
 目の前の彼は、気の毒としか言いようの無い人間味溢れた神様だった。
 高淤神の弟らしいが、見た目からして似ていない。というのも、彼の方が浅黒い肌をしており瞳の色も異なる。二十代後半くらいの美丈夫に見えるのだ。
 逆に高淤神と言えば、瑠璃色の瞳に癖の強い漆黒の髪と白い肌をしていた。そして、何より高飛車で高慢だ。逆らったら何されるか分からない恐怖が、彼女にはある。
 傍迷惑極まりない彼女の欲望を満たさんがために、巻き込まれる被害者その1は昌浩で、付随する物の怪も毎度とばっちりを喰らっていると言う。
 かく云う私も、高淤神に目を付けられたが故に散々振り回されている現実に溜息が漏れた。
 そんな私達を労うかの如く道反大神は、優しい言葉を掛け長旅を労ってくれたのだ。
「妻子が居なければ惚れたわ。いい男よね、道反様」
 思わず漏れた本音は、思っていたよりも大きかったみたいで道反の巫女は咎めることもなくクスクスと笑みを浮かべている。
「藍、俺がいるのに何で他の男に誘惑されるかな!」
 ガシッと人の肩を掴み暗雲を漂わせながら笑顔で迫る昌浩に、私はこれさえなければと心底思ったのは秘密である。
「良いじゃない。神様なんだし」
 目の保養は幾つあっても良いのだと主張するが、嫉妬深い昌浩に通じるわけも無くガミガミと怒られた。
「神様でも男は男だろう。それとも余所見できないように、閉じ込めて子作りに専念したい?」
 素面で監禁強姦宣言した昌浩に、物の怪はあっちゃーと額に手を当てて天井を向いているし、勾陳はヒューッと口笛吹いている。
「昌浩よ、子は相手を縛り付ける存在ではない」
 道反大神が昌浩を諭すように口を開いたのだが、その後に続く言葉に目が点となった。
「藍は、姉上に遣える巫女だ。姉上の承諾なしに婚姻も離婚も出来ぬ。安心されよ」
「わたくし達も、高淤神の前で愛を誓いましたものね」
 その時の光景を思い出したのか、頬に手を宛てウフフッと笑みを浮かべている。結構お年を召しているはずなのに、見た目年齢が若いせいかとっても似合っている。
「なんですとぉぉ!? 冗談じゃないわ! 無効よ!! 無効。結婚なんて絶対しない」
 離婚前提で了承したのに、離婚できないなんて反則過ぎるだろう。
「何言ってんの! そんな事したら、藍まで謀ったとか何とかイチャモン付けられて祟られちゃうんだよ」
「うっ……」
 昌浩に関わっただけで、全く関係ない私まで祟られてしまうのは嫌過ぎる。そもそも、高淤神が余計な一言を云わなければこんな大事にはならなかったのだ。
「結婚してどうしても生活に馴染めなくて離婚したいって言ったら俺は反対しない」
「昌浩……」
「今は、取敢えずで良いから一緒になって。その時が来たら、俺から高淤神に相談してみるから」
「……ううっ、どっちに転んでも不幸な気がする」
 思わずポロッと本音を零したら、昌浩の顔をが良い感じに固まった。だって、あの狸ジジイの孫だもの。あの手この手を使って色々と画策してきそうではないか。
「前後撤回。祝言挙げたら、速攻子作りだ。ジイ様から使ってない離れ貰って子供が出来るまで出られないように仕掛けを作ってもらうことにする」
 キラリと良い笑顔で鬼畜なことを宣う昌浩に、私はギャーッと乙女らしからぬ悲鳴を上げたのだった。やはり、蛙の子は蛙だった。

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