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少女、うっかり流されそうになる [ 37/41 ]


 人の上に跨り帯を解こうとする昌浩に、私は逃れようと身を捩った。
「逃げたら何も出来ないだろう」
「何もしなくて良いし、する必要もないでしょう」
 悲鳴のように叫ぶ私に対し、昌浩はきょとんとした顔で首を傾げた。
「藍は、いつか俺を置いてどこかへ行っちゃうんでしょう。名実共に夫婦になって子供が生まれればどこにも行けないよね」
 子供を盾に縛り付けようという魂胆に絶句する。一体どこでそんな鬼畜なことを教わったんだ。
「そういうのは、同意があってするもんでしょう」
「身体から入るのもありって聞いたけど」
 ああ云えば、こう云う。まさに一方通行だ。昌浩が嫌いとかそういう次元の問題じゃない。
 昌浩に犯罪染みたことを教えた奴を叩きのめさなければ、私の貞操は物凄く危うい。強姦なんて冗談じゃない。
「…………私は、ちゃんと段階を踏んで深い関係になるもんだと思っている。勿論、それをすっ飛ばす相手は論外よ」
 私の言葉に、昌浩の動きが止まった。私は、そのチャンスを逃すことなく畳み掛けるように続けた。
「昌浩が、少なからず私のことを思っていてくれるのは分かった。私もちゃんと貴方と向き合い答えを出すわ。性急に事を運ばなくても、繋がりたいと思えたときに私は貴方に身体を委ねる」
「本当?」
「昌浩に誓う。私は、約束は違えない」
「そこは、神様に誓うものじゃないの?」
 私の言葉に少し冷静さを取り戻したのか、昌浩から指摘が入った。
「二人だけの約束事に神様なんていらないでしょう」
と言えば、彼は頬を赤く染めて小さく頷いた。純情なところは変わりなく、裸で抱き合うくらいの知識しかないんじゃなかろうかと少しばかり疑問が湧いた。
「口吸いくらいは良いよね?」
「まあ、それくらいなら……」
 ちゃっかりしていると言うべきか。特段拒否する必要はないかとOKを出したのだが、後に昌浩を調子付かせる要因となるとは思いもよらなかった。


 強姦未遂事件から昌浩のべったりに最初は辟易していた私だったが、出雲につく頃には慣れた。
 手を繋いで歩くのは当たり前で、お風呂と便所以外はずっと一緒である。
「出雲に着いたのは良いけれど、これからどこへ向かえば良いのかしら?」
「揖夜神社なんだけど、詳しい場所までは分からないんだよなぁ」
 昌浩は、困り顔でどうしようと首を傾げている。下手に動いて迷子になるのは嫌だ。
「晴明殿に式を飛ばして勾陳と物の怪を呼び寄せた方が良くない? 急ぐ旅でもないし」
「藍にとってはそうかもしれないけど、俺はそういうわけにはいかないの。有給も有限だし」
「呼びつけた相手が神様なら文句も出やしないわ。その辺りは、あの狸が何とかするでしょうよ」
 それこそ、己の権力を使って黙らせるに違いない。その光景が目に浮かび私は思わず顔を顰めてしまった。
「一旦、宿を取ってもっくん達と合流してからの方が良いね」
「迷子になるのは嫌だもの」
 私は、物の怪たちを待つ為に宿を取ることを了承したのだったが、まさか後ろから着いてきて覗き見をしていたとは知る由もなかった。

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