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少年、策を練る [ 35/41 ]


 物の怪の失態のせいで、藍と夫婦になることが決まった昌浩は悩んでいた。
 決して夫婦になることが嫌なわけではない。意外と押しに弱い彼女は、露樹と彰子のタッグに負けてひょんなことで安倍邸に住むことになった。
 部屋数が少ないわけではないのに、何故か一緒の部屋で過ごしている。
 年頃の男女が、一緒の部屋で過ごすのは如何なものかと抗議したこともあったが、当人は諦めているのか何も言わなかった。
 身の回りの世話を焼く彼女を疎ましく思ったことはないし、散らかせばお小言を零しつつも片付けてくれる姿は、姐さん女房のようだと宣ったのは物の怪の談。
 実際に昌浩もそう思わなくもなかったし、基本面倒臭がりな彼女が世話をしてくれるというのだから比較的好意的であると思っていた。
 しかし、だ。子供を理由に嗚呼もはっきりと対象外だと言われてしまえば、逆効果だと云うことに藍は気付くべきだ。
 幸い、祖母に似たこの顔に滅法弱いらしいので癪ではあるが大いに利用させて貰おう。
「まずは、お互いの距離を縮めることから始めないと」
 小さな笑みを象り鬱葱と哂う昌浩の姿を見た物の怪が、ウッと呻き前方を歩く藍に向かって合掌したのだった。


 二つ目の宿で、藍が風呂に入っている間に昌浩は物の怪と勾陳を呼んで言った。
「藍との関係を進展させたいから、もっくんと勾陳がいると邪魔なんだよね」
 黒い笑みを浮かべて酷いことをサラリと宣う昌浩に、物の怪はパカッと口を大きく開けて彼を凝視した。
「一体どんな変化があったんだ、昌浩や」
「あそこまでコケにされて黙ってたら男じゃない。藍の意識改革をして、子供だと言わせない!」
 随分とずれた返事に物の怪は顔を引きつらせている。一方、勾陳は玩具を見つけたかのように薄く笑みを浮かべて無責任にも発破を掛けていた。
「その意気だ昌浩。そして、藍を押し倒して既成事実を作れば奴を縛れるぞ」
「勿論だよ! 頑張るよ、俺」
「いやいやいや、待て待て待て!!」
 下手したら強姦するんじゃないかと最悪な事態を脳裏に掠めた物の怪が、慌てて二人を止める。
「もっくんは、俺の恋愛を成就させようとは思わないのか?」
「式神甲斐のない奴だな」
「そういう問題じゃねーだろう!!」
 理不尽に責められた物の怪は、ウガァアーッと怒りに任せて喚くも勾陳の手刀が脳天に決まりあえなく撃沈した。
「騰陀は、私が責任持って面倒を見よう。ただ、我らも晴明の命で同行している。つかず離れずの場所から着いて行こう」
「藍が気付かなければ良いよ」
「肝に銘じておく。我らは、異界に戻るとしよう」
 勾陳は、物の怪を引っ掴むと宣言通り異界へと姿を消してしまった。
「これで邪魔者は居なくなった」
 ドス黒い笑みを浮かべながら、風呂から上がってくる藍になんて説明しようかと考えたのだった。

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