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少女、藤原道長と出会う [ 22/41 ]


 安部邸も中々に広いが、藤原邸はそれをはるかに凌いだ。
 門番に愛馬を任せ、女房に案内され寝殿へと案内される。
 物の怪は平然とした顔で前を歩いているが、昌浩はやけに静かでチラリと横目で見てみると思いっきり緊張していた。
「ねえ、勾陳」
「何だ」
「昌浩は、ここに来たことないの?」
「いや、あるぞ」
 素朴な疑問を勾陳にぶつけると、彼女は私が予想していた答えを返してくれた。
 藤原道長の娘が、安部邸にいるのだ。少なからず道長とは面識があって当然だ。
 なんせ私のような得体の知れない神子を邸に呼ぶくらいなのだ。珍しいものが好きなのだろう。
「その割には、緊張してるわね」
「そりゃ、相手は今をときめく政務者だからな」
「ふぅ〜ん、そういうものかしら」
 私達のやり取りを聞いていた物の怪が、緊張してガチガチに固まる昌浩に対しちょっかいを掛けていた。
「藍は、大物だなぁ。それに比べてお前は、ウウッ……情けない。何度も来てるっつーのに、未だに緊張して言葉もままならないとは」
「五月蝿いぞもっくん。俺の心は繊細なんだ。放っておいてくれ」
 物の怪のちゃちゃに対し、すかさず切り返す昌浩だが、内容は私を馬鹿にしている気がしなくもない。失礼なガキである。
「昌浩、物の怪……静かにね」
 横を歩く昌浩と物の怪に対し、サクッと釘を刺すと何故かブルブルと震えたのだった。


 通された寝殿の上座に道長が悠然と座り、私達に円座をすすめてくれた。
「よく来たな、昌浩。そして、京を守りし神子よ」
「道長様、お初にお目に掛かります。氏を神埼、名を藍。わたくしは、まだ未熟者ゆえ名で呼んで頂きとう御座います」
 三つ折ついて深く頭を下げると、道長から感嘆の声が上がる。
「ところで昌浩よ。今日は、藍を呼んだがお主は呼んでおらんぞ」
 道長は、呼んでも居ない昌浩がここに居ることに疑問を感じたのか首を傾げた。
 名指しされた昌浩は、冷や汗をダラダラと掻いている。ざまみろ……とは言わないでおく。
「わたくしが、同伴をお願いしたので御座います。文によりますと、ご子息の鶴君に夜な夜な妖が出るのだとか。わたくしの領分ではない場合、昌浩殿のお力をお借りするほか御座いません。念には念をと思いわたくしの勝手な判断で共に来て頂いたので御座います」
「なるほど、そうであったか! 流石は、先見の神子。昌浩は、将来有望な陰陽師だ。心強い。藍、昌浩頼んだぞ」
「「はい」」
「それでは、早速鶴君とお話をさせて頂けないでしょうか?」
「おお、構わんぞ。女房に案内させよう」
 パンパンと両手を叩き、控えていた女房が入ってきた。彼女は、道長に一礼すると私達を鶴君がいる西の対へと案内してくれた。

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