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少女、事件に巻き込まれる@ [ 18/41 ]


 安部邸に移り住むようになった私は、彰子が居る手前、安部邸で仕事をするわけにもいかず出張という形で依頼者の家を訪れるスタンスに変えた。
 移動手段に馬を買い付けたことに大層驚かれたが、自分の稼いだ金で世話も全て賄うので文句は言わせなかった。
 しかし、だ。この時代の馬は、想像していたよりも遥かに小柄で子馬並みの大きさしかなく本当に大丈夫かと思ったのは言うまでもない。
 安部邸の敷地に馬小屋を増設し、買い付けた牡馬の世話をしていると彰子がひょこりと顔を覗かせて私を呼んだ。
「藍姉様」
「なに彰子?」
 馬の身体をブラッシングしていると、彼女は入口から全く動こうとせず中の様子を伺っている。
「藍姉様宛にうちの父から文が届いてます」
「彰子のお父上から?」
 私は、首を傾げ藤原道長からの文に眉を潜めた。藤原道長は、今を時めく大物政治家。面識がない上に、お抱えの稀代の陰陽師を差し置いて私に文を出してくる理由が分からない。
 出来れば断りたいが、下手に断れば後々生き辛くなるのはごめんである。
「ターフェイの世話が終わってから見るわ。部屋に置いておいてくれる?」
「分かりました」
 彼女は、コクリと頷きパタパタと馬小屋を後にした。その様子を見ていた勾陳が、からかうように声を掛けてきた。
「優先するのが馬とは、藍にかかれば道長も形無しだな」
「当たり前でしょう。ターフェイは、私の相棒よ。優先されて当然なのよ。それに、貴族のご機嫌取りなんて真っ平ごめんだわ」
 フンッと鼻で笑い飛ばせば、勾陳は隠すことなくケタケタと笑っている。何がおかしいのか理解出来ないが、彼女にとって私の言動は笑いを誘発するらしい。
「でも、流石に今を時めく権力者からの手紙を放置するわけにはいかないしね。物凄く心底徹底的に拒絶したいけど、彰子の手前そうするわけにはいかないもの。ちゃんと読むわよ」
「そこは彰子なのか?」
「彼女の父親でなければ羊の餌にするわ。それか、習字の練習用の紙にしたわ」
 ブラッシングしていた手を止め、私は道具を片付けて部屋へと戻ったのだった。

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